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 24種類のスパイスと12種類の調味料を調合しつつ、あっさり味の一皿を提供できるのは天才だけだ。私にはできない。私の料理は常に食材のエントロピーを増大させる方向で決着する。そういう仕様になっている。

 実際、黒人差別の歴史においてセックス・ドラッグ・ロックンロールが果たした役割を、志賀直哉先生の文体で描写しきることは不可能だ。

 「それは静かだった」
 と書くことができないわけではないが、そんな結論はウソだ。

 てなわけで、今回のテキストは、最初に掲げた悪文を振りほどいて解説するという手順で書き進めることになる。まわりくどい書き方になるが、まわりくどい内容はまわりくどい書き方でしか表現できない。ご理解いただきたい。

 まず、リンク先の記事を読んでほしい。

 徳島市内の県立病院に勤務する男(35)が、10代の女子高生と50代の男性に暴行を加え、けがをさせた事件だ。
 この事件のキーワードは
 「きもい」
 という単語だ。

 記事によれば、加害男性は、午後10時過ぎ、コンビニ前の路上で、3人組の女子高生に
 「家に来ないか」
 などと声をかけ、その言葉に対して
 「きもい」
 と答えた女子高生の態度に立腹して、女子生徒の右腕をつかんで髪を引っ張るなどの暴行を加え、さらに、約5分後、女子生徒を助けに来た同市内の50代男性の顔面を1回殴るなどして、2人にそれぞれ約7日間のけがを負わせたということになっている。

 容疑者は、暴行の際に女子生徒から反撃されているとして、
 「正当防衛を主張します」
 と容疑を否認しているのだという。

 記事を一読する限り、容疑者の側に擁護されるべき要素は皆無に見える。

 ところが、事件が報道されるや

  • 被害者の女子高生は「きもい」という言葉の暴力性に無頓着すぎたのではないか。
  • 加害男性が悪いのは当然だが、「きもい」という言葉で男性を攻撃した女子高生の方も相応の罰を与えられるべきだ。
  • 女子高生が容疑者に声をかけられた時点で、もう少し穏当な対応をしていれば、暴力被害に遭わなかった可能性が高いと思う。自業自得とは言わないが、不注意だったと思う。

 という感じの意見がツイッター上に多数書き込まれた。

 当然、それらの意見に対する反論も集中した。
 全体的な議論の流れとしては、犯罪の勃発を被害女子高生に帰責するタイプの言い方は、ごく早い時期に(というよりも「即座に」)「セカンドレイプ言説」として盛大な袋叩きに遭って消えて行った。
 当然だ。

 この種の犯罪で、被害者側の落ち度を言い立てるのは二次加害以外のナニモノでもない。

 大切なのはこの後の展開だ。