冒頭で紹介した『13th』によれば、アメリカでは、人口の6.5%に過ぎない黒人が、刑務所の収容人数の中の40%を占めているのだそうだ。
別の計算では、アメリカの黒人男性が一生の間に刑務所に収監される確率は、30%以上で、つまり、黒人男性のうちの3人に1人が、生涯のうちに一度は受刑者としての生活を経験することになっている。この割合は、白人男性の17人に1人という数字と比べてあまりにも高い。
日本には黒人差別がない、ということを声高に主張している人たちがいる。
彼らの言明は事実とは異なっている。
当連載でも取り上げたことがある通り、うちの国には、大坂なおみさんを漫才のネタにして「漂白剤が必要だ」と言ってのけた芸人が実在している。
これを差別と言わずに済ますことは不可能だ。
ただ、アメリカに比べて、うちの国には黒人が少ない。
だから、黒人に対する差別を目の当たりにする機会を、日本に住んでいる私たちは、あまり多く持っていないという、それだけの話だ。
その代わりにと言ってはナンだが、在日コリアンや二重国籍者に対する差別はこの国のあらゆる場所で日常的に繰り返されている。
『13th』を視聴して、目が開かれたのは、差別が、単なる「心の問題」「お気持ちの問題」ではなくて、それに加担する人々の利益問題でもあれば、差別を内包する社会のシステムの問題でもあるという視点だった。
単に無知であるがゆえに差別に加担してしまっている人間がたくさんいることもまた一面の事実ではあるものの、差別構造はそれほど無邪気なばかりのものではない。
一方には、差別に苦しむ人々の不利益を前提に成立しているシステムが稼働しており、差別被害があることによって利益を得ている人々が差別の固定化のために意図的な努力を払っていることもまた厳然たる事実だ。
日本とアメリカでは、差別の現れ方に大きな違いがあるように見える。
でも、本当のところ、大差はない。
あの人たちがやらかしている差別と、われわれの中で育ちつつある差別は、区別も差別もできないほどそっくりだと、少なくとも私はそう思っている。
(文・イラスト/小田嶋 隆)
延々と続く無責任体制の空気はいつから始まった?
現状肯定の圧力に抗して5年間
「これはおかしい」と、声を上げ続けたコラムの集大成
「ア・ピース・オブ・警句」が書籍化です!
同じタイプの出来事が酔っぱらいのデジャブみたいに反復してきたこの5年の間に、自分が、五輪と政権に関しての細かいあれこれを、それこそ空気のようにほとんどすべて忘れている。
私たちはあまりにもよく似た事件の繰り返しに慣らされて、感覚を鈍磨させられてきた。
それが日本の私たちの、この5年間だった。
まとめて読んでみて、そのことがはじめてわかる。
別の言い方をすれば、私たちは、自分たちがいかに狂っていたのかを、その狂気の勤勉な記録者であったこの5年間のオダジマに教えてもらうという、得難い経験を本書から得ることになるわけだ。
ぜひ、読んで、ご自身の記憶の消えっぷりを確認してみてほしい。(まえがきより)
人気連載「ア・ピース・オブ・警句」の5年間の集大成、3月16日、満を持して刊行。
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