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 毎日新聞が伝えているところによれば、なんでもJR東神奈川駅の駅員が、
 《新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校や外出自粛が長引く中、少しでも明るい気持ちになってもらおう》
 ということで、改札の前にあの昔なつかしい黒板の伝言板を設置したのだそうで、これが、好評をもって迎えられているのだという。なるほど。

 いきなりのヒマネタだ。やれ新型コロナだ検察庁法改正だで世間の空気が緊迫しているなかで持ち出すには、あまりにも能天気な話題にも思える。でも、「伝言板」というフレーズを何十年ぶりかで見て、いろいろな記憶がよみがえってしまった私の執筆脳は、もはや後戻りができないのだね。

 今回は伝言板の話をする。

 そもそも、こんなほのぼの系の街ネタがどうして私のアンテナにひっかかったのかというと、週イチで出演しているラジオのディレクターさんが拾ってきてくれたからだ。ディレクター氏は、毎週、私が出演する20分ほどのコーナーのために、トークの材料になりそうな新聞記事やネット上の話題を収集してくれている。ありがたいことだ。ここのところ、私は、気がつくと、その、彼が拾い集めてきたネタをあてにしていたりする。不思議なもので、自力で見つけた記事よりも、他人が発見して集めてきてくれた話題のほうにより強くひきつけられることが多い。あるいはこれは、私自身の世間を見る目が、経年劣化にともなって摩耗していることの表れなのかもしれない。

 テレビでもラジオでも、あるいは雑誌、YouTubeでも同じことなのだが、番組なりページなりを制作しているスタッフは、常に有意義な話題や価値のある情報だけをサーチしているわけではない。むしろ、コンテンツの制作にたずさわる人間は、有意義な話や価値を持った情報を受け手にしっかり伝えるためにも、一定量の無駄話(まあ、「余白」ですよね)を希求している。番組枠のすべてがカタくてマジメなネタで埋められていると、視聴者がついてきてくれないし、なによりスタッフ自身が疲弊してしまうからだ。そういう意味でも、
 「神奈川県の駅で伝言板が復活していて好評らしいですよ」
 式のこぼれ話枠の話題は、貴重なのだ。

 瞬間視聴率を採取してみると
 「多摩川に流れ着いたアザラシのタマちゃんに地元の区役所から特別住民票が発行されて、このほど授与式がおこなわれました」
 みたいな視聴者をバカにしている感じのニュースが、一番数字を稼いでいたりもする。ヒマネタはバカにできない。