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 「別の意味」というのは、ジョンソン首相が、23日に英国民に向けて語った外出禁止令を含む思い切った内容の演説原稿が、それ以前に、英国政府が示していた方針と、かなりの部分で矛盾するものだったからだ。つまり「一貫性」という観点からすると、23日のジョンソン首相の演説は、支離滅裂だったと言っても良い。「裏切り」という言葉を使うことさえできるかもしれない。

 ただ、重要なのは、ジョンソン氏が、状況の変化に応じて、最新の事態に適応した政策転換を悪びれることなく実行してみせたことと、その自分の前言撤回(あるいは「朝令暮改」)を、率直に、わかりやすい言葉で国民に向かって語った点だ。
 この点において、彼の説明はいちいち出色だった。
 イギリス国民は、前後の経緯はともかくとして、あの日の演説には納得したはずだ。

 個人的には、これまで、ジョンソン首相について、その振る舞い方や選ぶ言葉のエキセントリックさから
 「軽薄」で
 「お調子者」で
 「受け狙い」の
 「ポピュリズム」丸出し
 の政治家だというふうに評価していた。

 それが、23日の演説を聴いて、見方をあらためた。
 「なーんだ。やればできるんじゃないか」
 と、大いに見直した。

 ふだんはお行儀の悪い軽薄才子みたいに振る舞っていても、いざ国難という場面では、にわかに引き締まった言葉でシンプルなメッセージを発信することができるわけで、なるほど、政治家の評価は危機に直面してみないと定められないものなのかもしれない。

 同じことは、トランプ氏についてもある程度言える。
 この人について、私はずいぶん前から「問題外」の政治家だというふうに判断している。あらゆる点で、ほとんどまったくポジティブな評価ができない人間だとも思っている。しかしながら、今回の新型コロナ対応に伴うテレビ演説に限って言うなら、まことにトランプさんらしい率直な言葉で、米国民に語りかけている。この点は評価しないわけにはいかない。

 もちろん、いつまでたっても「チャイナウイルス」という言い方を引っ込めないところや、必要のないところで野党やメディアの悪口を並べ立てる悪癖は相変わらず健在なのだが、国民に向けてのテレビ演説では、さすがの芸達者ぶりというのか、あれだけの選挙戦を勝ち抜いた政治家ならではの説得力を発揮している。

 ついでに申せば、7000億ドルという前代未聞の巨額を投じる経済政策の打ち出し方も見事だった。

 この点は、ドイツもすごい。報道によれば、7500億ユーロ(約89兆円)規模の財政パッケージを承認したという。
 これも、これまでのドイツ政府の態度からは想像できない思い切った決断だ。

 国民に覚悟と忍耐を求める以上、国としては、それだけの裏付けのある数字を示さなければならない。
 これは、言葉の使いかたそのものとは別の話だが、言葉に説得力を与える意味で、不可欠なことでもある。