ホテルニューオータニは、「ホテル側が約800人の前夜祭参加者と個別に契約し、個別に領収書のやりとりをした」という首相の説明をいまもって否定していない。このほか、当日の会費の設定や、明細書の有無や、契約した当事者の名前も含めて、一切明らかにしていない。つまり、太客である首相夫妻ならびに政府にとって都合の悪い情報に関しては口を閉ざしている。

 これはこれで、「信用」を守るひとつの姿勢ではある。

 とはいえ、ここで防衛されている「信用」は、太客である首相とホテル側の間で個別的に紐帯されている個別的な信用に過ぎない。ということは、太客でない大部分の宿泊客からしてみれば、「差別待遇」ですらある。いずれにせよ、普遍的な意味での「信用」ではない。

 一方、ANAホテルが守っている「信用」(←法と正義と真実を大切にするコンプライアンスに寄り添った信用)は、すべてのホテル客と共有可能な、世界中どこの国でも通用するグローバルで普遍的な「信用」だ。

 さてしかし、17日の時点までは、メディア各社の取材にメールで回答していたANAホテルは、18日に自民党と会談した後の19日以降、
 「個別の事案に関するお問い合わせに関しては、回答を差し控える」

 という姿勢に転換している。

 このANAホテルの対応の変化について、毎日新聞は、19日
 《首相答弁否定のANAホテル、自民幹部と会談後に“沈黙”…圧力はあったのか?》

 という記事をアップしている。

 あるいは、政府は、インターコンチネンタルホテルのコンプライアンスを殺しにかかっているのだろうか。

 うちの国の政権中枢に連なる人々は、これまで、財務省の官僚に不自然な答弁を強要し、公文書を改ざんさせ、ホテルの担当者に沈黙を求め、人事院の官僚に答弁を撤回させてきた。

 一つのウソを守るために、10のウソが必要になるというのは、よく言われる話で、実際、時系列に沿って考えればその通りなのだと思う。

 もう一つウソという同じ言葉について、権力勾配に沿って考える見方を推奨しておきたい。

 10人の部下を持つ人間がウソをつくと、10人のウソつきが誕生する。

 安倍首相ご自身は、あるいは、ウソをついている自覚を持っていないのかもしれない。

 しかし、ご自身が何百人何千人のウソつきを生産していることは、ぜひ自覚してもらいたい。ついでに、その何百人何千人のウソつきたちの心が、かなりの度合いで死んでいることも、できれば思い出してあげてほしい。ぜひ。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

小田嶋隆×岡康道×清野由美のゆるっと鼎談
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 「最近も、『よっ、若手』って言われたんだけど、俺、もう60なんだよね……」
 「人間ってさ、50歳を超えたらもう、『半分うつ』だと思った方がいいんだよ」

 「令和」の時代に、「昭和」生まれのおじさんたちがなんとなく抱える「置き去り」感。キャリアを重ね、成功も失敗もしてきた自分の大切な人生が、「実はたいしたことがなかった」と思えたり、「将来になにか支えが欲しい」と、痛切に思う。

 でも、焦ってはいけません。
 不安の正体は何なのか、それを知ることが先決です。
 それには、気心の知れた友人と対話することが一番。

 「ア・ピース・オブ・警句」連載中の人気コラムニスト、小田嶋隆。電通を飛び出して広告クリエイティブ企画会社「TUGBOAT(タグボート)」を作ったクリエイティブディレクター、岡康道。二人は高校の同級生です。

 同じ時代を過ごし、人生にとって最も苦しい「五十路」を越えてきた人生の達人二人と、切れ者女子ジャーナリスト、清野由美による愛のツッコミ。三人の会話は、懐かしのテレビ番組や音楽、学生時代のおバカな思い出などを切り口に、いつの間にか人生の諸問題の深淵に迫ります。絵本『築地市場』で第63回産経児童出版文化賞大賞を受賞した、モリナガ・ヨウ氏のイラストも楽しい。

 眠れない夜に。
 めんどうな本を読みたくない時に。
 なんとなく人寂しさを感じた時に。

 この本をどこからでも開いてください。自分も4人目の参加者としてクスクス笑ううちに「五十代をしなやかに乗り越えて、六十代を迎える」コツが、問わず語りに見えてきます。

 あなたと越えたい、五十路越え。
 五十路真っ最中の担当編集Yが自信を持ってお送りいたします。

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