私の住んでいる東京の北東部の地域話をすれば、私が育った50年前とは、まるで様子の違う町になっている。

 この20年ほど、独身の外国人に加えて、家族で暮らす外国人が目に見えて増えた。

 それゆえ、私の母校の小学校には、カタカナの名前の子どもたちがたくさん通っている。

 両親が揃っていない家庭から学校に通っている子どもたちも少なくない。

 これは、崩壊だろうか?

 私たちの町では、なにか間違ったことが進行していて、われわれのコミュニティーは壊滅寸前なのだろうか?

 私は必ずしもそうは思っていない。

 むしろ、目の前にある「リアル」が、これほどまでに変容しつつあるのに、それを直視しようとせずに、あいも変わらずサザエさん一家だの、三丁目の夕日だのを「日本の家族の理想」として引用している政治家の頭の中身の方がどうかしているのだと、少なくとも私はそう思っている。

 安倍総理大臣は、その著書『新しい国へ―美しい国へ・完全版』(文春新書)の中で、自身がかつて自民党の「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」の座長をつとめた経験を示唆しつつ、
 《子どもたちにしっかりした家族のモデルを示すことは、教育の使命ではないだろうか。》
 と言い、また
 《家族が崩壊しつつある、と言われて久しい。離婚率が上がり、シングルマザーやシングルファーザーに育てられた子や再婚家庭の子も増えている。現実問題として、少年院に収容されている少年たちの九割近くが、家庭に問題を抱えているといわれる。》
 という問題意識を明らかにしつつ、最終的に
 《家族のかたちは、理想どおりにはいかない。それでも、「お父さんとお母さんと子どもがいて、おじいちゃんもおばあちゃんも含めてみんな家族だ」という家族観と、「そういう家族が仲良く暮らすのがいちばんの幸せだ」という価値観は、守り続けていくべきだと思う。》

 と結論づけている。

 家族を大切にする考え方に異存はない。

 ただ、その「家族」なり「家族観」なりを防衛するために、日本中の家族が、どれもこれも同じスタンダードで再生産される粒ぞろいの斉一的な家族単位であることが望ましいというふうには私は考えない。

 自分の家族について自分が思うことと、他人の家族に関して他人が考えるところは、おのずと違っている。あたりまえの話だ。とすれば、自分自身の個人的な「家族観」とやらを守るために、他人の家族のあり方に注文をつける態度は、少なくとも私には思いもよらぬことだ。失礼にもほどがある。

 不思議なのは、日本の伝統的な家族観を守るためには、伝統的家族観を守りたいと思っていない人たちに対しても伝統的家族観を守ることを強制しないといけないと思い込んでいる人たちがいることだ。

 彼らは、いったい何者なんだろう?

 そういえば、百田尚樹さんの著書『日本国紀』の帯には、
 「私たちは何者なのか」

 というキャッチコピーが大書されていた。

 せっかくなので、この場を借りて、私も問うておきたい。

 あんたたちは何者なんだ?

(文・イラスト/小田嶋 隆)

小田嶋隆×岡康道×清野由美のゆるっと鼎談
「人生の諸問題」、ついに弊社から初の書籍化です!

 「最近も、『よっ、若手』って言われたんだけど、俺、もう60なんだよね……」
 「人間ってさ、50歳を超えたらもう、『半分うつ』だと思った方がいいんだよ」

 「令和」の時代に、「昭和」生まれのおじさんたちがなんとなく抱える「置き去り」感。キャリアを重ね、成功も失敗もしてきた自分の大切な人生が、「実はたいしたことがなかった」と思えたり、「将来になにか支えが欲しい」と、痛切に思う。

 でも、焦ってはいけません。
 不安の正体は何なのか、それを知ることが先決です。
 それには、気心の知れた友人と対話することが一番。

 「ア・ピース・オブ・警句」連載中の人気コラムニスト、小田嶋隆。電通を飛び出して広告クリエイティブ企画会社「TUGBOAT(タグボート)」を作ったクリエイティブディレクター、岡康道。二人は高校の同級生です。

 同じ時代を過ごし、人生にとって最も苦しい「五十路」を越えてきた人生の達人二人と、切れ者女子ジャーナリスト、清野由美による愛のツッコミ。三人の会話は、懐かしのテレビ番組や音楽、学生時代のおバカな思い出などを切り口に、いつの間にか人生の諸問題の深淵に迫ります。絵本『築地市場』で第63回産経児童出版文化賞大賞を受賞した、モリナガ・ヨウ氏のイラストも楽しい。

 眠れない夜に。
 めんどうな本を読みたくない時に。
 なんとなく人寂しさを感じた時に。

 この本をどこからでも開いてください。自分も4人目の参加者としてクスクス笑ううちに「五十代をしなやかに乗り越えて、六十代を迎える」コツが、問わず語りに見えてきます。

 あなたと越えたい、五十路越え。
 五十路真っ最中の担当編集Yが自信を持ってお送りいたします。

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