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 『ビートルズ イエロー・サブマリン』という映画を見ればわかる通り、あれは、愛と平和と音楽と黄色い潜水艦の力で、この腐り切った世界を救おうではありませんかという、あくまでもお気楽なお花畑のおとぎ話だ。

 とすれば、その映画の中で歌われる「みんな一緒に」もまた、おとぎ話の中のお花畑で歌われる鼻歌以上のものではない。

 引き比べて、JOCの言っている「全員団結!」は、そもそもが画一的、斉一的、集団主義的であると言われがちなわが国の国民に向けて発令されている中央からの号令である点で、「オール・トゥゲザー・ナウ」とは、真逆の運動原理に基づいたものだと申し上げてよい。

 なにしろ、財務大臣兼副総理たる人間が、
 「ひとつの民族ひとつの王朝が2000年続いている国はほかにない」

 と明言(あとで取り消したのだそうですが)している国の「全員団結」だ。

 こんなスローガンが、脅迫的に響かない道理がどこにあるというのだろうか。

 麻生太郎大臣やJOCの中の人たちは、うっかり忘れているのかもしれないが、そもそもオリンピックは、多様性の祭典だ。

 世界中の200を超える地域と国から、何百もの民族が一堂に会するところに、その意義がある……と、私は、前回の東京オリンピックに先立つあれこれの宣伝の中で、その種のお説教をさんざん聞かされた世代の者なのだからして、この点は間違いない。オリンピックは、「ひとつになる」ことより「多様である」ことを寿ぐべく開催される祝典だ。少なくとも五輪憲章にはその意味のことが書かれている。

 であるからして、こういう舞台で達成されるべき「オール・トゥゲザー」は、
 「互いの違いを認めつつ、ともあれひとつの場所を共有する」
 ということであって、
 「全員がひとつの旗のもとに結集して、個々の自我を捨てて完全に一致する」
 ということではない。

 麻生副総理は賛成してくれないかもしれないが、日本は、日本生まれ日本育ちの日本人が暮らしている国である一方で、日本の外の様々な国にルーツを持つ日本人が住んでいる国でもある。長らく海外で暮らした経験を持つ国民も少なくないし、異国からやってきたパートナーや混血の子供たちを家族に持つ日本人もたくさんいる。

 そういう人々は、競技によっては、父や母の国の選手を応援するかもしれない。昨今の状況からすれば、海外在住時になじみのあった特定の選手を応援する人だってそんなに珍しくはないはずだ。

 こういう時代に、JOCは、いったい、誰を指して「全員」と言い、何をもって「団結」と考えているのだろうか。

 多様な外国人が集う国際競技大会で、多様な日本人がそれぞれ多様な価値観に基づいて多様な楽しみ方をすることのどこがいったい彼らにとって残念であるのか、そこのところが私にはどうしてもわからない。

 私個人は、せっかくなので、勇気を出して、外国人と交流する機会を持てればよろしかろうと考えている。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

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 「ア・ピース・オブ・警句」連載中の人気コラムニスト、小田嶋隆。電通を飛び出して広告クリエイティブ企画会社「TUGBOAT(タグボート)」を作ったクリエイティブディレクター、岡康道。二人は高校の同級生です。

 同じ時代を過ごし、人生にとって最も苦しい「五十路」を越えてきた人生の達人二人と、切れ者女子ジャーナリスト、清野由美による愛のツッコミ。三人の会話は、懐かしのテレビ番組や音楽、学生時代のおバカな思い出などを切り口に、いつの間にか人生の諸問題の深淵に迫ります。絵本『築地市場』で第63回産経児童出版文化賞大賞を受賞した、モリナガ・ヨウ氏のイラストも楽しい。

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