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 これは、どこをどう切り取ったところで、
「すでに格差がある以上、これから導入する試験に格差があったところで大きな違いはない」

 という格差容認論である点に違いはない。

 いや、現実の世の中には、萩生田大臣と同じように、格差が実在することを認識することこそが「現実感覚」でありそれこそが「リアル」だと信じている人はたくさん(というか、日本人の半分以上は萩生田大臣に賛成でしょう)いる。それはわかっている。試験だったり入試だったりが、その格差を前提として実施されていることを「容認」している人間だって、決して少なくないはずだ。のみならず、これから導入される試験にしても、そりゃ当然富裕層に有利なものになるだろうさ、てな調子であらかじめあきらめている日本人も山ほどいるはずだ。

 ただ、萩生田発言の問題点は、それを言ったのが、そこいらへんのスナックのカウンターに腰掛けているおっさんではなくて、文部科学行政のトップを担う役割の人間だったところにあるわけで、これはつまり、「軍隊なんだから兵隊が死ぬのは仕方ないよね」と言ったのが元帥閣下でしたみたいな、どうにもならない話であるわけです。

 しかも、この話に救いがないのは、萩生田大臣の口吻の裏にうかがえる「格差容認」および「入試関連業務民営化」ならびに「大学入試基準の非学問化」あるいは「大学における研究ならびに学術教育の軽視と産業戦士育成過程の強化」といった諸要素が、そのまま現政権の主要メンバーがかねて抱いている共通の理念そのものだからだ。

 いつだったかの当欄でご紹介した安倍首相によるスピーチを再掲しておく。この演説は、いまでも首相官邸のホームページに掲載されている。興味のある向きは全文を熟読してほしい。5年前の言葉だからこそ、いまになって気づかされる部分がいくつかあるはずだ。

平成26年5月6日
OECD閣僚理事会 安倍内閣総理大臣基調演説

 平成26年の5月に開催されたOECDの閣僚理事会の席で、世界中のVIPを前に安倍首相は「ある調査では、大学の特許出願のうち、アメリカでは15%程度が新たなビジネスにつながっていますが、日本では0.5%程度しかない。

 日本では、みんな横並び、単線型の教育ばかりを行ってきました。小学校6年、中学校3年、高校3年の後、理系学生の半分以上が、工学部の研究室に入る。こればかりを繰り返してきたのです。

 しかし、そうしたモノカルチャー型の高等教育では、斬新な発想は生まれません。

 だからこそ、私は、教育改革を進めています。学術研究を深めるのではなく、もっと社会のニーズを見据えた、もっと実践的な、職業教育を行う。そうした新たな枠組みを、高等教育に取り込みたいと考えています。」

 と述べている。

「学術研究を深めるのではなく」
と、彼は言い、さらに
「もっと実践的な職業教育を」
と言ってしまっている。

 もしかして、現政権の中枢にある人々は、「学問」とか「学術教育」全般に対して憎悪に似た感情を持っているのかもしれない。

 そういうふうに考えないと説明がつかない。

 体調が良くないので、オチを付けずに終わることにする。

 私は特段に学問のサイドに立っている人間ではないのだが、それでも、ここまで教育やら大学やらをコケにされるとやはり気持ちが良くない。

 ではまた来週。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

小田嶋隆×岡康道×清野由美のゆるっと鼎談
「人生の諸問題」、ついに弊社から初の書籍化です!

 「最近も、『よっ、若手』って言われたんだけど、俺、もう60なんだよね……」
 「人間ってさ、50歳を超えたらもう、『半分うつ』だと思った方がいいんだよ」

 「令和」の時代に、「昭和」生まれのおじさんたちがなんとなく抱える「置き去り」感。キャリアを重ね、成功も失敗もしてきた自分の大切な人生が、「実はたいしたことがなかった」と思えたり、「将来になにか支えが欲しい」と、痛切に思う。

 でも、焦ってはいけません。
 不安の正体は何なのか、それを知ることが先決です。
 それには、気心の知れた友人と対話することが一番。

 「ア・ピース・オブ・警句」連載中の人気コラムニスト、小田嶋隆。電通を飛び出して広告クリエイティブ企画会社「TUGBOAT(タグボート)」を作ったクリエイティブディレクター、岡康道。二人は高校の同級生です。

 同じ時代を過ごし、人生にとって最も苦しい「五十路」を越えてきた人生の達人二人と、切れ者女子ジャーナリスト、清野由美による愛のツッコミ。三人の会話は、懐かしのテレビ番組や音楽、学生時代のおバカな思い出などを切り口に、いつの間にか人生の諸問題の深淵に迫ります。絵本『築地市場』で第63回産経児童出版文化賞大賞を受賞した、モリナガ・ヨウ氏のイラストも楽しい。

 眠れない夜に。
 めんどうな本を読みたくない時に。
 なんとなく人寂しさを感じた時に。

 この本をどこからでも開いてください。自分も4人目の参加者としてクスクス笑ううちに「五十代をしなやかに乗り越えて、六十代を迎える」コツが、問わず語りに見えてきます。

 あなたと越えたい、五十路越え。
 五十路真っ最中の担当編集Yが自信を持ってお送りいたします。