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 というのも、首相にしても官房長官にしても、彼らが分刻みのスケジュールで動いている極めて多忙な人々であることは、別に政治通やジャーナリストでなくても、当たり前な大人であれば誰でも知っていることだからだ。

 にもかかわらず、小泉氏は、
「午前中に長官にお電話をして、本当にきょうのきょうで大変申し訳ないんですけど、お時間ありませんかということで(時間を)いただいた次第だ」

 てな調子のたわけたエピソードを開陳している。

 当日の朝に電話して官房長官のアポイントメントが取れたというお話だけでも驚天動地なのに、さらに同じ日に首相への面会を実現し、加えて、折よく官邸に集まっていた記者クラブの記者たちを相手に、官邸の場を借りて即席の会見を開いたんですボク、などというおとぎ話みたいな偶然を、いったい誰が信じると言うのだろうか。

 私には無理だ。カニとじゃんけんをしてパーを出して負けたという感じの話の方がまだ信じられる。

 率直に申し上げて、前々から、民放のワイドショーの時間を狙って、周到に発表の機会をうかがっていたのでなければ、こんな会見を仕組むことは不可能だと思う。

 私は、「仕込み」がいけないとか「用意周到な政治的プロパガンダだからけしからん」とか、そういうことを言おうとしているのではない。

 小泉氏にしてみれば、ほかならぬ自分自身の結婚にまつわる経緯を、写真週刊誌あたりに嗅ぎつけられて、あれこれほじくり返されるのは不愉快であるはずだし、そうそういつまでも隠しておける話でもない以上、どこかのタイミングで、自分の口から報告せねばならない。だとしたら、あえて発表の機会を「捏造」して一芝居たくらんだこと自体は、極めて理にかなった行動だと思う。

 今回のこのタイミングでの発表は、舞台装置の作り方が若干白々しかったことを除けば、話の持ち出し方としてはおおむね見事だったと思う。

 私が問題にしているのは、だから、小泉氏の側の態度や言動や白々しさやいけ図々しさではない。

 小泉氏は、ご自身が置かれている状況の中で、自分にできる範囲のことをやってみせただけのことだ。

 私が昨日来、絶望的な違和感に身悶えしているのは、官邸と小泉新夫妻の合作による、この陳腐極まりないおめでたセレモニー演出に、誰一人ツッコむ記者がいなかった残念な事実に対してだ。

 つまり、官邸に詰めかけた記者が、投げかけるべき質問をせず、また、結婚のニュースを伝えるテレビ番組の制作者やスタジオの出演者たちが、誰一人として批評的な立場からの言葉を発しなかったなりゆきをかみしめながら、私は、うちの国の政治報道と芸能報道が、すでに死滅していることにあらためて呆然としている次第なのだ。

「今回の、ご結婚の発表に官邸を選ばれたのは本当に偶然なのですか?」
「……確認いたしますが、小泉さんは、今朝電話をして、その電話で首相と官房長官とのアポイントメントを取ったと、本当にそのようにご主張なさるわけですね?」
「いち国会議員が、自身の結婚というプライベートな事情を発表するにあたって、首相官邸を使うことに、ご自身の中で抵抗というのか気後れのようなものは感じていらっしゃるのでしょうか」
「総理に報告するためのアポを取った時期は、実際のところ、いつの時点だったのか」
「この記者会見のタイミングと場所と内容は、いつ、誰によって、どんな目的で、企画・立案され、どんな手順を経て実行に移されたのか。もしくは、これらは、すべてあなた自身のアタマの中から生まれたことであるのか」

 と、誰か一人でもいい、テレビのこっち側にいる普通の日本人の誰もが不思議に思っているその質問を、国民になり代わってぶつけてくれる記者がいれば、私の気持ちは、ずいぶん違っていたと思う。