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 われわれは、自己犠牲の物語を美しいと感じるように育てられている。

 ついでに言えばだが、その美意識は、現政権が現行憲法を改正する上での最も重要な動機になってもいる。

 自民党が公表している改正案の中では、日本国憲法の中にある「個人」という言葉が、すべて「人」に書き換えられることになっている。

 要するに、新しい憲法草案の中では、われら国民は、一個の個人である前に、「国家」なり「公」の一構成要素であると考えられているわけだ。

 最後に余計なことを言ったかもしれない。

 が、私もまた、犠牲者としてリストアップされている人間の一人である以上、言うべきことは言っておかなければならない。

 ベースボールは、アメリカで誕生した時点では、進塁と得点を競うシンプルなゲームだった。

 それが、地球の裏側のわが国に渡来して「野球」という言葉に翻訳されると、いつしかそれは「犠牲バント」と「敬遠四球」によって実現されるインパールな敗北を愛でる暗鬱な儀式に変貌した。

 星野君の二塁打は祝福されない。

 勝利に貢献しなかったからではない。

 全体に同調しなかったからだ。

 同じ文脈において、国保監督の判断は、称賛はされても祝福はされない。

 敗北したからではない。

 国民の気分に同調しなかったからだ。

 いやな結論になった。

 毎年、この季節はいやな原稿を書いている。

 私は世の勤め人の夏休みを呪っているのかもしれない。

 この底意地の悪い原稿を読み終わったら、夏休みを楽しんでいる皆さんは、どうかゆったりとした気持ちを取り戻してください。ごめいわくをおかけしました。

(文・イラスト/小田嶋 隆)

小田嶋隆×岡康道×清野由美のゆるっと鼎談
「人生の諸問題」、ついに弊社から初の書籍化です!

 「最近も、『よっ、若手』って言われたんだけど、俺、もう60なんだよね……」
 「人間ってさ、50歳を超えたらもう、『半分うつ』だと思った方がいいんだよ」

 「令和」の時代に、「昭和」生まれのおじさんたちがなんとなく抱える「置き去り」感。キャリアを重ね、成功も失敗もしてきた自分の大切な人生が、「実はたいしたことがなかった」と思えたり、「将来になにか支えが欲しい」と、痛切に思う。

 でも、焦ってはいけません。
 不安の正体は何なのか、それを知ることが先決です。
 それには、気心の知れた友人と対話することが一番。

 「ア・ピース・オブ・警句」連載中の人気コラムニスト、小田嶋隆。電通を飛び出して広告クリエイティブ企画会社「TUGBOAT(タグボート)」を作ったクリエイティブディレクター、岡康道。二人は高校の同級生です。

 同じ時代を過ごし、人生にとって最も苦しい「五十路」を越えてきた人生の達人二人と、切れ者女子ジャーナリスト、清野由美による愛のツッコミ。三人の会話は、懐かしのテレビ番組や音楽、学生時代のおバカな思い出などを切り口に、いつの間にか人生の諸問題の深淵に迫ります。絵本『築地市場』で第63回産経児童出版文化賞大賞を受賞した、モリナガ・ヨウ氏のイラストも楽しい。

 眠れない夜に。
 めんどうな本を読みたくない時に。
 なんとなく人寂しさを感じた時に。

 この本をどこからでも開いてください。自分も4人目の参加者としてクスクス笑ううちに「五十代をしなやかに乗り越えて、六十代を迎える」コツが、問わず語りに見えてきます。

 あなたと越えたい、五十路越え。
 五十路真っ最中の担当編集Yが自信を持ってお送りいたします。