大げさに言えばだが、私は、この程度の逸脱が全国ニュースとして報じられてしまう国で、この先、自分が、無事に天寿をまっとうできるのかどうかに不安を感じはじめている。カタクチイワシの群れみたいな相互監視社会を作り始めているこのわれわれの国では、右旋回のタイミングがほんの少し遅れれば、そのまま群れから取り残されて永遠に排除されることになっている。62歳の私は、ボタンを押し間違えることが不安で、この先、二度とコンビニのコーヒーを買えなくなることだろう。

 NHKのニュースサイト「NHK NEWS WEB」にアップされているニュースの放送原稿では、事件の概要を以下のように説明している。

《−略− 警察によりますと「100円のコーヒーカップに150円のカフェラテを注いでいる」という情報が常連の客から店に寄せられ、店が警戒していたところ、男がカフェラテを注いでいるのを確認しました。
 このため店のオーナーが問いただしたところ、男は「ボタンを押し間違えただけだ」と説明していましたが、警察の調べに対し、容疑を認めているということです。 −略− 》

 率直に申し上げて、高校の放送研究会がパロディで作る嘘ニュースのシナリオに見える。というのはつまり、それほど「バカなネタを大真面目に作っている」ということだ。

 パロディの要諦は、「バカなネタを大真面目に作ること」だ。
 で、NHKのこのニュースは、まさに、「バカなネタを大真面目に作る」
 というパロディの作劇法そのままの手法で作り込まれている。

 その結果、本物のニュースでありながら、最終的には「ニュース」という存在そのものに対する見事なパロディに仕上がっている。

 おそらく、このニュースフィルムを作っている間、NHKのスタッフは、自問自答せずにいられなかったはずだ。

「なあ、このニュース、このカタチのままで流して大丈夫なのか?」
「これ、ヘタすると、定時ニュースの権威をクソまみれしちまうぞ」

 80から90年代にいくつか列席したテレビ業界関係者の結婚披露宴では、
「新郎が新婦を誘拐した」
 とか
「容疑者新郎Aが共犯者新婦Bと共謀して計画的な職場放棄(新婚旅行)を画策している」

 みたいな見立てで作られた記者レポート風のVTR作品が上映されて、大いに参加者の喝采を集めていたものだった。