ファミリービジネス研究が盛んになったターニングポイント
世界でファミリービジネス研究が盛んになってきたのにはどんな背景があるのでしょうか。
沈:2つのターニングポイントがあったと思います。
1つめは99年のラポルタらによる論文で、これは世界27カ国でそれぞれ規模の大きい企業30社を集めてファミリーによる所有などを調査したものです。その結果、米英はファミリービジネスの比率が低かったのですが、それ以外では例えばメキシコが100%、フランスが2割など、かなり比率が高いことがわかりました。これがファミリービジネスの研究が世界的に広がるきっかけの一つになりました。
2つめが2003年のアンダーソン&リーブの研究です。米国のS&P500社を対象に調べたところ、3分の1が家族企業であり、しかも業績が高いことが判明しました。この結果を受けて各国でデータづくりが本格化し、世界の主たる経済学・経営学のアカデミックジャーナルでファミリービジネスが取り上げられるようになりました。
最近ではゴメス、メジャーらによるソーシャル・エモーショナル・ウエルネス(SEW)が一つの潮流になっています。これは金銭的な富以外の効用からファミリービジネスを分析する手法です。ファミリービジネスの研究は今も盛り上がりの過程にあり、論文の数や引用度などをベースに算出すると、約110ある経営学のアカデミックジャーナルの14番目まできています。
後藤:テーマ別にはかつては事業承継の論文が大半でしたが、現在は多様化し、イノベーション、アントレプレナーシップなども目立ちます。ファミリーは感情の塊であり、それがいいほうにも悪いほうにもはたらくため、SEWも主要なトピックになっています。
多様性がこの10年ほど重要になっており、日本の事例から普遍性をどう取り出せるかがポイントになります。そこでは日本の商業倫理がなぜ生まれたのか、それをどのように実践してきたのかも重要な視点です。
例えばファミリービジネスではノンフィナンシャルパフォーマンス、非財務的価値ともいいますが、社会貢献とか従業員満足を重要な価値としています。最近のSDGs(持続可能な開発目標)でもやはり見本になるのはファミリービジネスであり、さまざまな角度から参考になる点があると思います。

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