大廃業時代の大半はファミリービジネス

日本のファミリービジネスの課題の一つは、少子高齢化です。

:きちんと経営しているにもかかわらず、後継者がいないケースが増えています。政府は若い人の起業などを推進していますが、現在ある企業を残すというオプションもあります。

 ビジネスは社会に貢献するという大事な役割があるから、子供たちにもっとプライドを持って家業を継ごうと教育したほうがいいと思います。少子高齢化で特に地方経済は縮小が進みますが、地域には長い歴史、文化があり、そこで大切なのがファミリービジネスの役割です。地域で信頼されるファミリービジネスを中心にして事業を集約するケースも出てくるかもしれません。

沈准教授は、ファミリーの師弟に対する教育の重要性を強調する
沈准教授は、ファミリーの師弟に対する教育の重要性を強調する

後藤:多様性を持った社会という視点で考えたら、地域を維持することはその地域のためだけでなく、日本全体にとっても重要です。そしてこれは将来の世代に対してもとても大切なことです。

 大廃業時代はもちろんファミリービジネスにとって危機といえる状況です。でも、だからといってすべてが残ればいいわけではないでしょう。顧客に喜ばれないならばなくなるし、それはやむを得ないことです。それでも、今のままでは必要なファミリービジネスがなくなりかねません。その意味で事業承継に向けた子どもの教育については私も同感です。

 米国の場合も1980年代以前はビジネススクールにファミリービジネスの教育はありませんでした。ファミリービジネスの出身者でもMBAを取得してから家業に戻る人は少なかったのです。ファミリービジネスは遅れた企業形態だとする議論があったし、研究自体もマイナーな存在でした。

 それが今では、世界的なファミリービジネスの評価上昇と並行して、世界有数のビジネススクールでもファミリービジネスに焦点を当てています。

:海外にはファミリービジネスはカッコ悪いという感覚はありません。特に米国では金持ちの社長が社会貢献として社会を守るというイメージがさまざまな形で表現されています。

 一方、日本では長寿企業が地域で貢献していてもあまり知られず、公私混同とか家族の対立とかネガティブな面が伝えられることが多いと思います。その分、ファミリービジネスが正当に評価されていない面があります。

 国際比較した場合、韓国の財閥も家族企業ですが、日本との決定的な違いは経営哲学が薄いことです。歴史を振り返ると日本と韓国は社会制度が近かったはずですが、日本の老舗の経営哲学はなぜ生まれたのでしょうか。

後藤:江戸時代の鈴木正三、石田梅岩や二宮尊徳からの約400年続く系譜があり、明治維新になってからは渋沢栄一が儒教と商業倫理を結びつけています。また近江商人には「三方よし」という伝統的な言葉があります。こうしたことと長寿企業は関係している面があると思います。

:昔からある経営理念や経営哲学だったり、企業を存続させるためのノウハウが日本には多くあります。今後、経営者は取り込めるものは取り込んで企業を進化させていくべきだと思います。

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