行動様式にどんな違いがあるか
後藤:経営学におけるエージェンシー理論はざっくり言えば、経営者は株主の利益を実現する代理人=エージェントと位置付けています。しかし、ファミリービジネスの経営者の場合、どうやらそれだけではありません。単に株主だけでなく、従業員、顧客、地域社会など多様なステークホルダーをみています。それで業績がいいわけですから、株主としては反対する理由はないわけです。

沈:ファミリービジネスを社会の中の存在ととらえるならば、株を持たなくても役割が果たせるわけです。しかも、日本はこうした経営を昔から自然に行っていた可能性があります。
後藤:ファミリービジネスとそうでない企業を比べた場合、収益性、これは総資産利益率(ROA)を中心に統計的な優位性があります。もう一つが安定性であり、これは自己資本比率や流動比率などで、ファミリービジネスのほうが統計的に有意に高いのです。
問題は成長性です。18年7月にオランダで開催されたファミリービジネス研究者の国際学会では、事業環境の変化にファミリービジネスはどう対応するのかがテーマになりました。また別の国際学会ではデジタルエコノミーにファミリービジネスが対応できるかがテーマでした。
沈:アジア金融危機とリーマンショックという外部ショックについてファミリービジネスとそうでない企業で対応に違いがあるか検証を進めています。
わかってきたのは、ファミリービジネスが人的資本をキープしながら物的投資を調整するのに対し、そうでない企業は人を切って投資を残す対応をすること。このため、短期的には非家族企業が強いかもしれませんが、安定性または長期の観点からはファミリービジネスのほうが強いと思います。
もちろん技術変化は経済ショックと違うため、その違いがどういう結果をもたらすかは今後の検証が必要ですが、これからは企業を考察する際には、安定性などを含めて多面的にとらえるべきです。
後藤:100年以上続いてる企業をサンプル調査したところ、創業のときと商品も市場も同じ企業は全体の19%です。一方、商品または市場がまったく変わった会社は32%。残りの49%は既存事業の周辺への進出です。こうしてみると日本の同族企業はしなやかに変化に対応しているといえると思います。
沈:ファミリービジネスはネットワークを含む関係性を重視しますから、ショックがきたときにもそれまでつくってきた関係性が生きてきます。それ以外の会社の経営者は在任任期が短い分、短期的にしがちであり、ショックのときも短期的に業績が回復すればいいと考えます。しかし、それでは人を育てながら事業を進化させるとか環境に対応するといった機会がなかなかつくれません。
こう考えるとファミリービジネスは社会的にも大切な存在といえると思います。
後藤:ファミリービジネスがそれ以外の企業と違うのは、存続を第一の目的とすることです。このため、未知の分野に入っていくときにはリスクを十分考えながらになります。
ファミリービジネスのなかでも老舗といわれてるような長寿企業はさまざまな蓄積がある分、それが「家憲」などに表れています。
例えば、近江商人の「押し込め隠居」は、絶対的な権限を持つファミリービジネスの当主がおかしなことをした場合、分家や番頭がまずいさめ、それでも聞かない場合、周囲が立ち上がって押し込めてきたわけです。
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