ファミリービジネスは日本経済の大きな部分を占めるにもかかわらず、まだ知られていない面がたくさんある。日本の同族経営はどんな特徴があるのか。またどんな課題があるのかなどについて、この分野の研究者である日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授、京都産業大学の沈政郁准教授に語ってもらった。
後藤特任教授は長寿企業の研究からこの分野に進み、ファミリービジネスを所有形態や役員構成に注目しながら分析を進めている。一方、韓国出身の沈准教授は日本のファミリービジネスの大きな特徴である婿養子について計量的な分析を行い、世界的にも注目を集める。
それぞれの立場を踏まえた議論を通じて、同族経営の独自の行動様式や強さの背景、世界の研究動向などが浮かび上がる対談となった。

日本のファミリービジネスの研究を続けてきました。それぞれどのような特徴があると考えていますか。
後藤:1つはやはり長寿性が挙げられると思います。私はもともと長寿企業の研究からこの分野に入っています。海外の学会でも日本のファミリービジネスが話題になるとき、まず出てくるのは長寿性です。
しかも、長寿企業のなかでも超長寿といえる企業数が多いのです。100年以上続いている企業は2014年時点で2万5000社以上ありますが、147社が500年以上、21社が1000年以上となっています。この数はその後も増えています。
100年以上続いている企業についてみた場合、9割以上がファミリービジネスとなっています。しかも、創業家がずっと続けているビジネスが多いのです。これに対して、例えばイタリアやスイスの場合、創業家が続いている比率は100年以上続く企業のうちでも5割ほどであり、日本よりもずっと少ないのです。
もう1つは日本的な経営の側面です。終身雇用制、年功序列、企業内組合には早くから注目されましたが、その代表例がファミリービジネスといえます。
沈:海外と比べた場合、特徴的なのは所有はしなくても経営に長い間携わることだと思います。海外でファミリービジネスを議論する場合、ファミリーによる所有が伴いますが、日本では株をほとんど持たなくてもファミリーが経営することがあります。
次の特徴は長寿企業とも関連しますが、ファミリービジネスを存続させる独特なメカニズムがあることです。
多くのファミリービジネスが悩む問題は後継者です。特に次の経営者としての資質を欠く、いわゆる「バカ息子問題」がネックになりますが、これに対しては社会的な措置として婿養子のような慣習があります。家族でなく家を大事にするため、外から後継者を選び苗字や財産を与えるわけです。ほかの国が持ってない仕組みであり、長く生き続けるための日本独特の社会的な制度です。
後藤:婿養子のほかでは、たとえば番頭という仕組みが挙げられると思います。番頭は欧米におけるシニアマネジャーよりも非常に大きな機能を持っており、ファミリービジネスの存続と強く関係しています。それ以外にも例えば、財閥の三井家は、欧米のファミリービジネスに似た機能である「大元方」(ファミリーの資産管理機関)を早くから持っていたことも挙げられます。
ファミリービジネスは時間の経過とともに非ファミリービジネス化することが知られていますが、それに抗する工夫も多くみられます。
例えば、2015年時点でみた場合、上場企業のうち創業家が上位10位以内の株主でないにもかかわらず、社長もしくは会長に40年以上いるファミリービジネスが12社ありました。これは株式に頼らずファミリーに経営を託すに足る、信頼関係を築く工夫を続けた結果とみています。
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