2022年は日産自動車の“当たり年”になりそうだ。発売がずれこんでいた新型電気自動車(EV)「アリア」を5月に、新型軽EV「サクラ」を6月に、新型「フェアレディZ」を夏に、そして新型「エクストレイル」を7月に発売と、まさに怒涛(どとう)の新車攻勢となっている。さらに年内にはミニバン「セレナ」を全面改良すると予想されている。

試乗したのは最上級グレードの「G e-4ORCE」である。試乗の当日はあいにくの雨模様だった
試乗したのは最上級グレードの「G e-4ORCE」である。試乗の当日はあいにくの雨模様だった
(写真:筆者が撮影)
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 しかも、これらのモデルがいずれも力作ぞろいなのだが、中でも今回取り上げるエクストレイルには注目していた。というのも、ハイブリッドシステムの「e-POWER」、可変圧縮比エンジン「VCターボ」、そして電動駆動4輪制御システム「e-4ORCE」という現在の日産が持つ最新技術をてんこ盛りにしたモデルとなっているからだ。 既に、VCターボとはどのようなエンジンか、エクストレイルでe-POWERとVCターボエンジンを組み合わせた理由は何か、については以前のこのコラムで取り上げたので、今回は改めて新型エクストレイルという商品に焦点を当てて解説していこう。

タフさと上質さを両立

 日産の説明によれば、新型エクストレイルで狙ったのは「上質さとタフさの両立」だったという。日産がユーザーへのアンケートで、エクストレイルが属するMクラスSUV(多目的スポーツ車)の満足度を聞いたところ「悪路・雪道での走破性」と「内装デザインの仕上げや品質」の2点について、重視度が高いわりに満足度が低いことが分かったという。もともとエクストレイルは「タフギア」というキャッチフレーズで、「アウトドアでの使える道具」であることを売り物にしてきた。今回は歴代エクストレイルが磨いてきたタフさ(走破性)に、新たに上質さを加えることで、他のSUVにはない新たな個性を創造することに取り組んだ。

ユーザーがSUVで重視するニーズのうち、走破性と品質・仕上げの良さに関する満足度が低かった
ユーザーがSUVで重視するニーズのうち、走破性と品質・仕上げの良さに関する満足度が低かった
(写真:日産の資料を筆者が撮影)
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 新型エクストレイルで上質さが開発のキーワードになったのにはユーザー層の高齢化という背景もある。日産によれば、L/MクラスのSUVにおける40代以上のユーザー層の比率が2011年度には66%だったのに対し、2020年度では75%と、10ポイント近くも上昇している。これに伴って、2011年度には車両単価が300万円以下の比率が約6割だったのに対し、2020年度には350万円以上が56%を占めるようになり、平均価格帯が大幅に上昇している。つまり、ユーザーが上級へ移行しているわけで、新型エクストレイルにも、シニアユーザーにふさわしい上質さが求められるようになったわけだ。

L/MクラスのSUVではユーザーに占める40代以上の比率が上昇し、これに伴って価格帯も上がっている
L/MクラスのSUVではユーザーに占める40代以上の比率が上昇し、これに伴って価格帯も上がっている
(写真:日産の資料を筆者が撮影)
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 しかしタフさと上質さの両立の実現は、容易なことではない。というのも、単純に考えれば正反対の要素を同時に盛り込むことになるからだ。例えば外観デザインでは、初代や2代目の持っていたタフな力強いテイストを復活させることを狙った。ただし、初代や先代のようにプレスラインでストレートに道具感を表現すると上品にはなりにくい。新型エクストレイルではプレスラインは最小にする一方、力強さは面の張りで表現するようにして、シンプルな上質さと力強さを両立するように配慮した。

車体のプレスラインをなるべく少なくして、面の作り込みで上質さと力強さを表現することを狙った。カラーはシェルブロンド+スーパーブラック
車体のプレスラインをなるべく少なくして、面の作り込みで上質さと力強さを表現することを狙った。カラーはシェルブロンド+スーパーブラック
(写真:日産自動車)
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 インテリアも同様だ。造形はなるべくシンプルにする一方、スイッチやダイヤル類の多くを今回のエクストレイルから新作として、細部を精緻に造り込むことで「ユーザーに無意識で上質さを感じてもらうようにした」(デザイン担当者)。このように、内外装デザインに共通するのは「分かりやすい豪華さ」を避けていることだ。上質さを表現しようと飾り立てるような演出をすれば、タフさとは両立しなくなる。これまで、宣伝などで用いるテーマカラーとして3代目までは赤を使ってきたが、新型ではシェルブロンドと呼ぶシャンパンのような色合いとブラックの2トーンにしたのも、上質さとタフさ、という今回のエクストレイルの開発テーマを表現するのにふさわしいと判断したからだ。

素早いステアリング応答

 試乗車両の内装は、最上級グレードの「G」に用意されるタン(淡い茶)色のナッパレザー(山羊革)仕様だった。これまでのエクストレイルにはない華やかな雰囲気だ。そして走り出してまず感じるのがその静かさである。「ノート」と同様の第2世代e-POWERを搭載する新型エクストレイルは、速度が上がってロードノイズが大きくなってからエンジンをかけるので、EVのように静かで滑らかな走行感が味わえる。踏み込めば電動車らしい力強い加速感が得られ、エンジンノイズもそれなりに高まるが、それでも遠くのほうで回っているような感じで、ノイズ自体に3気筒エンジンという言葉が連想させる安っぽさもない。

新型エクストレイルに用意されるタン色のナッパレザー内装。試乗車のインテリアもこの仕様だった
新型エクストレイルに用意されるタン色のナッパレザー内装。試乗車のインテリアもこの仕様だった
(写真:日産自動車)
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 新型エクストレイルのプラットフォームは先代からの改良型でホイールベースも同一だが、別ものと言っていいほど手が加えられている。先代モデルはモデル末期で、競合車に比べると車体剛性の面でやや古さを感じさせたが、新型ではイメージが一新され、サスペンションからの振動をしっかりと受け止める高い剛性感が味わえる。足回りに硬さはなく、路面の段差なども角を丸めて吸収する。新型エクストレイルは、シニア層のユーザーが上級セダンから乗り換えるケースもかなりあるようだが、まったく違和感なく乗り換えられる乗り心地といえるだろう。

 そして何よりも驚いたのがステアリング操作に対する応答性だ。先に説明したように、足回りが比較的マイルドな設定なので、ステアリング操作に対する応答もマイルドかと思っていたら、予想よりもずっと速い。注意深く観察していると、ステアリング操作によって前輪の方向が変わり、旋回力を生み出すよりも前に、後輪に荷重が移動し、後輪の旋回外輪によって旋回し始めるような感触がある。これは、新型エクストレイルに搭載された目玉技術の1つであるe-4ORCEの効果だろう。

 e-4ORCEでは、ふだんは前輪駆動で走行しているが、システムがコーナーだと検知すると後輪の駆動力配分を増やすとともに、後輪内側に微小な制動力を加えて旋回力を生み出す。この後輪での旋回力が素早く立ち上がるため、ステアリング操作に機敏に対応することが可能になったわけだ。この素早いステアリング応答のおかげで、まるで小さく軽いクルマを操っているような気持ちになり、車体の大きさを感じさせない。今回の試乗では、e-4ORCEが生み出す軽快な走りが、エクストレイル最大の魅力だと感じた。エクストレイルを購入するなら、ぜひe-4ORCEを搭載するAWD(全輪駆動)仕様を選ぶべきだと思うし、実際、現在の受注に占めるAWD仕様の比率は9割にも上るという。

新型エクストレイルはe-4ORCEの働きで、ステアリング操作に対する素早い応答を実現している
新型エクストレイルはe-4ORCEの働きで、ステアリング操作に対する素早い応答を実現している
(写真:日産の資料を筆者が撮影)
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 このように、新型エクストレイルは、モーターとVCターボエンジンが生み出す高い動力性能や軽快なコーナリング、高い質感の室内など魅力的なモデルに仕上がっているが、やや物足りなかったのが燃費だ。今回は埼玉県・長瀞(ながとろ)周辺で、高速道路と郊外の一般道をほぼ半々の比率で走行したが、総合燃費は燃費計の読みで15.8km/Lと、WLTCモード燃費の18.4km/Lには及ばなかった。もっとも、これはかなり遠慮なくアクセルを踏んだ値なので、街中をおとなしく走ればもっと良くなる可能性もある。いずれにせよ、マツダの「CX-60」と並んで、最新の魅力的なSUVであることは間違いない。実際、新型エクストレイルの受注は8月末時点で1万7000台を超えており、日産の提案する「タフさ+上質」というコンセプトはユーザーの支持を得ているようだ。

[日経クロステック 2022年9月27日掲載]情報は掲載時点のものです。

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