今度は藤井風で来たか――。ホンダが2021年4月に発売した新型「ヴェゼル」のCMソングを聞いて抱いた感想だ。じつはひそかに、ヴェゼルのCMソングには注目していた。ホンダのCMソングというと、筆者はなんだか洋楽というイメージがあったのだが(実際には邦楽も使われている)、そうした中で先代ヴェゼルはSuchmosやFriday Night Plansといった日本の若いアーティストを起用してきていて、ちょっと違った雰囲気を感じていた。その路線は新型ヴェゼルにも踏襲されて、今回の藤井風の起用に至ったようだ。

2021年4月に発売された新型「ヴェゼル」。水平基調の落ち着いたデザインに生まれ変わった
2021年4月に発売された新型「ヴェゼル」。水平基調の落ち着いたデザインに生まれ変わった

 藤井風の曲は、メロディーは爽やかなのだけれど、歌詞はちょっと毒というか苦味を含んだものが多いのだが、今回ヴェゼルのために書き下ろされた「Kirari」は、軽やかなメロディーだけでなく歌詞もポジティブで、まさにドライブ中に聴きたい曲に仕上がっている。ホンダの広報担当者によれば、ヴェゼルはホンダのラインアップの中でも30~40歳代の比較的若い世代が購入する比率が高いそうで、そうした点でも、その世代に人気の高い藤井風の起用につながったのだろう。

デザインテイストを大きく転換

 さて、読者の皆様には報告が遅れたが、まったくの筆者の都合で、6月からこの連載は不定期掲載ということにさせていただいている。これまでご愛読いただいている皆様には大変申し訳ないのだが、なにとぞご理解賜りたい。

 話を戻すと、先代のヴェゼルは先代「フィット」のプラットフォームをベースとした小型SUVとして誕生した。クーペを思わせるスタイリッシュなデザインとは裏腹に、センタータンクレイアウトを生かした広い室内と荷室を実現し、登場以来たちまち人気モデルになり、日本だけでなく世界の市場でホンダの基幹モデルの1つとなった。その後を受ける2代目ヴェゼルは、フィットのプラットフォームをベースとした小型SUVという特徴は変わらず、またリアのドアハンドルを窓枠部分に設けて一見2ドアクーペのように見せる手法も先代ヴェゼルから引き継いでいる。しかしデザインテイストは大きく変わった。

新型ヴェゼルも後席や荷室が広いという先代ヴェゼルの美点を受け継いでいる
新型ヴェゼルも後席や荷室が広いという先代ヴェゼルの美点を受け継いでいる

 ホンダは、13年に発売した先代フィットから「ソリッド・ウイング・フェース」と呼ぶフロントデザインの採用を始めた。これは光沢のある樹脂を使ったグリルと、目尻のつり上がったヘッドランプを一つのつながりとして表現したものだ。先代ヴェゼルもこのデザインを採用した、かなり押し出しの強いビジュアルだった。またサイドビューも、リアピラーの角度を寝かせ、ボディーサイドに前下がりのプレスラインを刻んだスポーティーさを強調したものだった。

 これに対して新型ヴェゼルは、フロントグリルをボディーと同色にした、スポーティーというよりは落ち着きのあるデザインで、サイドビューも水平基調の伸びやかさを強調したものだ。従来のヴェゼルがちょっとやんちゃな感じだったとすれば、今度のヴェゼルはずいぶん大人びた、言い方を変えると主張が控えめのおとなしいデザインになったとも言える。

 先代ヴェゼルの人気のかなりの部分にデザインが貢献していると思っていたので、こんなに落ち着いたデザインにイメチェンしちゃって大丈夫なのか? と筆者は要らぬ心配をしていた。しかし新型ヴェゼルの発売から約1カ月たった5月24日時点での受注台数は3万2000台と、月販計画台数5000台の6倍以上に達している。その後も受注数は伸び続けているというから筆者の心配は、まさに要らぬお節介だったわけだ。

 このようにデザインテイストが大きく変わった理由は、一口に言えば時代の変化に合わせた結果だと開発責任者の岡部宏二郎氏は語る。新型ヴェゼルの開発コンセプトは「AMP UP YOUR LIFE」、直訳すれば「あなたの人生を増幅する」ということになるが、増幅されるのはあくまでも「あなた」、つまり「ユーザー」である。これまでが「クルマの特徴を際立たせる」ことを狙っていたとすれば、新型ヴェゼルは「主役であるユーザーを引き立てるクルマ」に変わったということになる。クルマが過度に自己主張するのではなく、あくまでも「引き立て役」に徹するということだ。

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