新型コロナウイルス禍ということもあるのかもしれないが、最近とみに、既存メディアの地盤沈下を感じる。今回取り上げる日産自動車の新型「ノート」についても、既にYouTubeには多くの一般ユーザーによる公道試乗動画が掲載されているのだが、この原稿を書いている2月18日現在、まだプロのモータージャーナリストによる公道試乗の記事はwebにほとんど掲載されていない(追記:その翌日の2月19日ごろからようやく掲載され始めた)。筆者も発売されてから日産に試乗を申し込んでみたものの、試乗車を用意できるのが2月中旬以降ということで、まだ試乗車を借り出せていない。そうこうしているうちに、販売店には続々と試乗車が配備され、それを試乗した体験動画がどんどんYouTubeにアップされているわけだ。
2020年12月末に発売された日産自動車の新型「ノート」。今回は試乗したのが“私物”だったので外観は日産の広報写真でご容赦いただきたい(写真:日産自動車)
そんなとき、たまたま筆者の知人が新型ノートを購入して、それを試乗させてもらう機会があったので、今回このタイミングで記事にすることができた。だから今回の試乗記は“広報チューン”なしの(最近はそういうこともあまりない気がするが)、一般消費者が購入した新型ノートの試乗記になる。
プラットフォームを一新
先に結論を言ってしまうと、新型ノートは先代よりも2ランクくらい上のクルマになった。ボディー剛性、乗り心地、静粛性、室内の質感など、これまで競合他社に後れを取っていた部分を一気に挽回したといっていい。それを可能にしたのがプラットフォームの一新だ。正直にいって、先代ノートのプラットフォームは国内市場で展開するのには力不足だった。
このコラムの「日産『キックス』は“遊び心”より実用性重視」でも触れたように、先代ノートは現行型「マーチ」から採用が始まった新興国向けプラットフォームの「Vプラットフォーム」を採用していた。このプラットフォームは、新興国での材料の入手しやすさや軽量化、低コスト化を重視したもので、性能的にはマーチクラスでぎりぎり、車体が一回り大きいノートにはやや実力不足というのが正直な印象だった。
だからノートの全面改良に当たって、筆者はルノー・日産グループのBセグメント車向け新世代プラットフォーム「CMF-B」を採用することを期待していたのだが、一方で、それは難しいかもしれないと感じていた。というのも、先代ノートは当初日米欧の3極で展開するグローバルモデルだったものの、欧州市場では「マイクラ」に取って代わられ、「ヴァーサ」として販売されていた米国でもハッチバックモデルがカタログから落とされた(ノートとは異なるセダンモデルは残っている)ため、事実上国内専用モデルになっていたからだ。市場の小さい国内向けの車種ではコスト削減が優先され、Vプラットフォームが流用されてしまうのではないかという懸念が拭えなかったのだ。
競合車より割高なのは事実
しかし新型ノートは筆者の懸念を払拭し、CMF-Bプラットフォームを採用して登場した。その結果として、クルマとしての基本性能を大きく向上させることができたわけだ。ただしその代償もある。既に多くの方面から指摘されている価格の高さだ。新型ノートでは従来あったガソリンエンジン仕様がカタログから落とされ、日産が「e-POWER」と呼ぶシリーズハイブリッド仕様のみになった。これによってベース価格が従来の144万6000円(S、前輪駆動仕様)から、新型では一気に202万9500円(S、前輪駆動仕様)へと60万円近く上がった。
さらにe-POWER搭載仕様同士で比較しても、価格が先代の「X」グレードの205万9200円から、新型の「X」グレードでは218万6800円へと約13万円上昇している(前輪駆動仕様同士の比較)。ただ、これだけを見れば、パワートレーンの出力が上がっていることや、室内の質感、乗り心地や静粛性が大幅に向上していることを考えると不当に高くはないように感じる。
しかし、例えば最大の競合車種と思われるホンダの新型「フィット」と比較すると、ノートの割高感が浮き彫りになる。フィットの売れ筋グレードであるハイブリッド仕様の「e:HEV HOME」では、ノートXではオプションとなるLEDヘッドライトや高速道路での運転支援機能(ノートの「プロパイロット」に相当)、本革巻きステアリングなどを標準装備するにもかかわらず、価格は206万8000円と、ノートXより約12万円も安いのである。
ノートに、この3つの装備をオプションで追加しようとすると(実際には他の装備と抱き合わせになっているので、そこから該当する装備だけを抜き出したとして推定した額)、さらに20万円程度は高くなるので、イメージとしてはフィットよりも30万円くらい高く感じる。同様にトヨタ自動車の「ヤリス」と比較すると、ノートXと装備レベルが近いグレードはヤリスの「HYBRID G」(213万円)だが、ヤリスは標準で高速道路での運転支援機能とディスプレーオーディオを標準装備するから、やはりイメージとしては20万円くらいノートが割高な感じだ。
ノートのXグレードで、カタログなどに掲載されているブルーとブラックの2トーン塗装を選び、プロパイロットとセットになった純正ナビを装着し、さらにLEDヘッドライトや本革巻きステアリングを装備し、フロアマットなども追加すると、これらの装備と抱き合わせになる機能も含めて、諸費用込みの見積もりは290万円を超える。Bセグメントの車種に300万円近い金額を出すというのは一昔前なら考えにくかったことだろう。
新開発プラットフォームは開発コストが上乗せされるので、どうしてもコスト高は避けられない。この点、先代からプラットフォームを流用したフィットは有利だし、新世代プラットフォームの「GA-B」プラットフォームを採用したヤリスがフィットよりやや高めの価格設定になっているのも、理由は同じだと思う。しかも先ほど説明したように、現在のところノートは国内専用車であるのに対して、フィットやヤリスは世界戦略車として海外でも販売される。見込める総販売台数が少ない分、割高になってしまうという日産の台所事情が今回のノートの価格設定に透けて見える。
大幅に向上した車体剛性
もちろん当の日産は、そんな事情は百も承知で新型ノートのコンセプトを構築している。だからこそ、パワートレーンもe-POWERだけに絞り、低価格帯はあえて捨てて、品質・性能で勝負に出たという感じだ。実際、ガソリンモデルを出そうとすれば、価格帯は160万~170万円になるのだろうが、この価格帯は軽自動車の「DAYZ」の上級モデルと重複する。DAYZも軽自動車としてはかなり出来のいいモデルで、室内の質感や乗り味は、筆者の私見ではあるが先代のノートを凌駕(りょうが)する。ターボ仕様を選べば動力性能もひけを取らず、4人乗りであることを除けば室内スペースも負けていない。日産は、価格重視の顧客にはマーチを薦めるというが、事情があって軽を選べないというユーザー以外はDAYZを選んだほうが、マーチを選ぶより満足感は高いだろう。
話をノートに戻すと、以前から改良されたのが、第2世代となったe-POWERだ。発電専用のエンジンは先代と同じ排気量1.2L・直列3気筒の「HR12DE」だが、最高出力を58kWから60kWに高めた。これに組み合わせるモーターやインバーターは新開発で、モーターの最高出力は先代の80kWから85kWに、最大トルクは254N・mから280N・mに向上したほか、インバーターは容積を40%、質量を33%それぞれ低減してシステムの小型化を図っている。このコラムの「日産『キックス』は“遊び心”より実用性重視」で取り上げた「キックス」の駆動モーターが95kW・260N・mなのと比べると、最高出力では新型ノートのほうが低いが、最大トルクでは上回ることが分かる。
新型ノートは第2世代の「e-POWER」を採用した。エンジン、モーターの出力を高めたほか、インバーターを大幅に小型・軽量化した(資料:日産自動車)
先に触れたように全面的に刷新したプラットフォームは、世界初の1.5GPa級冷間ハイテン(高張力鋼)材を採用するなど、超ハイテン材の採用を先代よりも24%増やすことで、重量増を避けつつ従来より車体剛性を30%高めている。同時に、ステアリングの取り付け剛性や、サスペンションの剛性も高めることで、後で紹介するように、先代とは見違えるようなしっかりとした乗り味・静粛性を実現している。
新世代プラットフォーム「CMF-B」を採用することで車体剛性や静粛性を高めた(資料:日産自動車)
また、今回の全面改良で特徴的なのは車体を小型化していることで、先代が全長4100×全幅1695×全高1525mm、ホイールベース2600mmだったのに対して、新型(今回試乗したXグレード)は全長4045×全幅1695×全高1520mm、ホイールベース2580mmと、全長で55mm、ホイールベースで20mm短縮している。その主な目的は街中での取り回し性の向上で、最小回転半径は先代の5.2m(e-POWER仕様)から新型は4.9mに小さくなっている。これで室内スペースはどうなったのか、それはこの後の試乗パートで触れよう。
印象的な乗り心地の良さ
では今回も走り出してみよう。室内に乗り込んでまず感じるのは、2クラスくらい上がったと感じさせる室内の質感だ。バイザーのない液晶メーターとナビゲーションの画面が連続する形状のディスプレーは、今年の中ごろに発売が予定されている日産の新世代EV(電気自動車)「アリア」と共通なコンセプトのデザインで、操作性を向上させるためにディスプレーを途中で屈曲させ、ナビ画面を手前に近づけたのが特徴だ。同様のデザインは、今年国内でも導入予定の独フォルクスワーゲンの8代目「ゴルフ」でも採用されている。
ナビ画面とメーターパネルが連続するデザインが特徴。質感も大幅に向上した(写真:日産自動車)
また、センターコンソールは高い位置に設定されており、ドライバーズシートに収まると囲まれ感がある。このセンターコンソールの高いデザインは、最近の上級車種で多く採用されているもので、黒い光沢のあるパネルを採用したシフトレバー周りの仕上げも相まって、これまでのこのクラスのクルマにはない高級感を演出する。インストルメントパネルそのものも、ソフトな素材は使われていないものの、見た目の品質は高い。センターコンソールのアームレストとドアの内張りにソフトな素材が使われているのも好印象だ(Xグレードのみ)。
黒色の光沢パネルがあしらわれたシフトレバー周り(写真:日産自動車)
質感という観点で見ると、競合するヤリスに対しては明らかにアドバンテージがあるし、フィットと比べても、ノートのほうが、高級感があると感じるユーザーは多いのではないだろうか。こういう内装の仕上げでは欧州車に定評があるが、こと質感という点ではこのコラムの「プジョーの新型『208』はBセグの新しいベンチマーク」で高く評価したプジョー208にも負けていないと思う。
先代ノートは、特に後席の広さが印象的だったが、これに比べると新型ノートはやや狭くなった印象を与える。全長を短縮した影響で、実際に膝回りの余裕が若干減少しているのに加え、前席のセンターコンソールの位置が高いことや、内装色が従来の青系から新型では黒い色に変わったので閉塞感が出て、数値以上に狭く感じるということもある。
ただ、実際に座ってみれば、先代より余裕が減ったとはいえ、相変わらず十分なスペースが確保されている。先代ノートでは前席下にバッテリーが搭載されていたため足入れ性が悪かった点が新型では解消されているので、実際に着座した姿勢はむしろ先代よりラクかもしれない。競合車との比較では、ヤリスと比べると明らかに広いが、フィットに対しては足元のゆとりや開放感で、フィットに軍配が上がる。
シートの出来も競合車を上回る。ヤリスもフィットもそれぞれの先代と比べるとシートの性能は非常に向上しているのだが、ノートのシートは、表面の感触がソフトで、その奥でしっかりと体を支えてくれる感触がある。これに比べるとヤリスやフィットのシートは、体はしっかりと支えてくれるものの包まれ感に乏しく、やや素っ気ない印象を与える。
活発な動力性能
走り出すと、しっとりとした懐の深い乗り心地が印象的だ。シートと同様に、当たりはソフトだが、その奥でしっかりと衝撃を受け止め、剛性の高い車体で吸収するのが感じられる。これに比べると、ヤリスやフィットの衝撃の伝え方は、もっとストレートだ。シートといい、サスペンションといい、ここでもプジョー208と共通するテイストがある。CMF-Bプラットフォームはルノー主導で開発されたものだが、新型ノートにちょっとフランス車的な乗り味を感じるのはそのせいかもしれない。
一方で動力性能はモーター駆動であるだけにアクセルの踏み始めから大きなトルクが立ち上がり、クルマの動きをコントロールしやすい。前回のこのコラム「多気筒エンジンの高級車みたいだったEVモデルのマツダ『MX-30』」で、マツダのMX-30が、加速時にエンジンのようなサウンドを発生させることで「EVらしくない」走りになっていることを紹介した。逆に新型ノートはちょっと電車みたいなモーター騒音を隠さずに加速していくので、純粋なEVのMX-30よりもよほど“EVっぽい”走りだ。このあたりは電動車に対するメーカーの考え方に違いがあって面白い。
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