SUBARU(スバル)の新型「レヴォーグ」に公道試乗できたのは、ちょうど日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)2020−2021の発表があった翌日だった。いまから言うのは後出しジャンケンになってしまうので信じてもらえないかもしれないけれど、今年のCOTYはクルマの出来からいって、新型レヴォーグで間違いないだろうと思っていた。ちなみにインポートカー・オブ・ザ・イヤーは仏グループPSAの「プジョー208/e-208」だがこれも妥当な結果だと思う。
先代よりも彫刻的なデザインになった新型「レヴォーグ」(写真:筆者撮影)
プジョー208についてはこのコラムの「プジョーの新型『208』はBセグの新しいベンチマーク」でも取り上げているのだが、やはりとても出来が良かった。「10ベストカー」に入っていたトヨタ自動車の「ヤリス」やホンダ「フィット」といった大物も、けっして出来が悪いわけではなかったのだが、今回は相手が悪かったというべきだろう。
懐の深い乗り心地
新型レヴォーグで話題の装備といえば、このコラムの「スバルのアイサイトXの頭脳『FPGA』とは」でも取り上げた新型運転支援システムの「アイサイトX」だろう。しかし、新型レヴォーグに乗って、まず印象的だったのは、その懐の深い乗り心地だった。というのも、2014年に発売された初代「レヴォーグ」を試乗したときに、その剛性の高い車体や、スポーティーな乗り味、そしてこの車種から搭載が始まった「アイサイト Ver.3」などに強い印象を受けたものの、操縦安定性重視の足回りにより、乗り心地がかなり犠牲になっていたからだ。
その後の部分改良で、だいぶ乗り心地は改良されたらしいのだが、残念ながら試乗の機会がなく、今回は6年半ぶりくらいにレヴォーグに乗って、その激変ぶりに驚いた。乗り心地と操縦安定性の両立という点では、世界的に見てもこのクラスで屈指の出来ではないかと思う。まずシートがいい。表面はソフトだがその奥でしっかりと体を支えるタイプで、しかも今回試乗した上級グレードの「GT-H EX」は最近のクルマでは珍しくなったランバーサポートを装備するので、腰痛持ちの筆者でも、6時間ほどの試乗中、腰の痛みを感じることはなかった。
サスペンションは路面の小さな凹凸の衝撃を柔らかくいなす一方で、高速道路のつなぎ目のような比較的大きな衝撃は角を丸めながら素早く吸収する。車体剛性の高さも印象的で、伝わってくる衝撃を素早く減衰させるので、乗員には不快な振動はほとんど伝わってこない。こう書くと柔らかいサスペンションを想像するかもしれないが、ステアリング操作に対する車体の応答性は思いのほか機敏で、コーナーリング中の姿勢も安定しており、レヴォーグの伝統であるスポーティーな走りは損なわれていない。
新型レヴォーグの車体は、骨格を先に溶接してから外板を溶接する「インナーフレーム構造」や、構造用接着剤の採用で、従来に比べてねじり剛性で44%、フロントの横曲げ剛性で14%向上している(資料:スバル)
希薄燃焼エンジンの○と△
新開発の1.8L・直噴ターボエンジンは、部品の8割を新設計したというCVT(無段変速機)「リニアトロニック」と相まって、アクセルの踏み始めからほとんどターボラグを感じさせずにクルマを加速させる。この新開発エンジンは、燃費向上のために希薄燃焼を採用しており、40%以上という最高熱効率を達成しているのが特徴の一つだ。ただ希薄燃焼エンジンは低速トルクが低くなりがちで、そこを筆者も懸念していたのだが、結果的には杞憂(きゆう)に終わり、低速でのひ弱さを感じさせる場面はなかった。
新開発の1.8L・直噴ターボの「CB18エンジン」。希薄燃焼を採用して最高熱効率40%以上を達成している(写真:スバル)
こうした走りには新型CVTも一役買っている。というのも、新型CVTは変速比幅を従来の約6.3から8.1へと大幅に拡大しているからだ。低速側ではより低いギア比で発進でき、力強い加速に貢献している。このコラムで何度も書いているように筆者はCVTを好まない。その理由は、改善されてきているとはいえ、アクセルを踏んでからまずエンジン回転数が上昇し、それに遅れてクルマが加速し始める、いわゆる「ラバーベルトフィール」が払拭されていない場合が多いからだ。
ただし、レヴォーグに搭載されている新型CVTは、アクセルを踏んでいる間はほぼ変速比が固定されていて、エンジン回転数と車体の加速が比例しているので、ほとんどラバーベルトフィールは感じない。初期のリニアトロニックは燃費を向上させるためなのか、少々アクセルを踏んでもエンジン回転数が反応しない感触があったのだけれど、最近のリニアトロニックはレヴォーグに限らずアクセルの操作に敏感に反応するようになっていて、この点でも痛痒(つうよう)を感じさせない仕上がりになっている。
このように動力性能には文句はないのだが、燃費に関してはやや期待外れだった。希薄燃焼とか最高熱効率から、かなりの好燃費を期待していたのだが、新型レヴォーグ(GT-H EX)のWLTCモード燃費は13.6km/L(GT-H EX)と、「SKYACTIV-X」エンジンを搭載したマツダ「CX-30」の15.8km/L(4輪駆動仕様)に比べると見劣りする。
新型レヴォーグの1.8L・ガソリン直噴ターボエンジンと、CX-30の2.0L・SKYACTIV-Xエンジンを比較することには異論があるかもしれないが、どちらも希薄燃焼技術を採用していること、SKYACTIV-Xエンジンも過給圧は低いもののスーパーチャージャーと組み合わせた過給エンジンであること、最高出力が近いこと(レヴォーグの130kWに対してCX-30は132kW。ただし最大トルクはレヴォーグの300N・mに対してCX-30は224N・mと差がある)などからあえて比べてみた。
実際に走行したときの燃費は、いずれも燃費計の読みで一般道では11〜12km/L、高速道路では15〜16km/Lと、一般道ではWLTC燃費(市街地モード)の10.0km/Lを上回ったものの、高速道ではWLTC燃費(高速道路モード)の15.3km/L並みだった。高速道路を走る頻度にもよるが、日常生活での燃費は12〜13km/Lというところだろう。SKYACTIV-Xを搭載したCX-30に試乗したときの燃費は市街地走行で13~14km/L、高速道路走行で18~19km/Lというところだったので、レヴォーグはこれには及ばない結果となった。期待の希薄燃焼エンジンは、出力は○だが、燃費は✕とは言わないまでも△というところか。
快適な静電容量式のステアリングセンサー
注目のアイサイトXの使い勝手についても触れよう。そもそも新型レヴォーグに搭載されているアイサイトは、アイサイトXでなくても、従来のアイサイトVer.3から改良された「新世代アイサイト」である。ざっくりおさらいすると新世代アイサイトは、従来のアイサイトよりもカメラで監視できる視野を広げることによって、右折時に直進してくる車両との衝突回避や、交差点で横から接近してくる車両との出合い頭衝突の回避を支援することが可能になったほか、ブレーキ制御だけでは衝突回避が難しい場合には、ステアリング操作も併せて行う回避支援機能などを盛り込んでいる。
アイサイトXはこれらの機能に加えて、「3D高精度地図」や準天頂衛星「みちびき」を活用した高精度GPS(全地球測位システム)の位置情報を組み合わせることで、カーブや料金所へ入る前に自動的に減速する機能や、方向指示器を操作すると車線変更時のステアリング操作を支援する機能も備える。さらに、高速道路で渋滞時(速度50km/h以下)に一定の条件を満たすと、ステアリングから手を離すことができる「ハンズオフアシスト機能」を搭載したのも大きな特徴だ。
新世代アイサイトとアイサイトXの機能の比較(資料:スバル)
試乗でアイサイトXを体験して、個人的に一番ありがたいと思ったのが新たに採用された静電容量式のステアリングタッチセンサーだ。アイサイトに限らずほとんどのADAS(先進運転支援システム)では、高速道路の単一車線を走行する際のブレーキ、アクセル、ステアリング操作がほぼ不要になるのだが、運転者はステアリングに手を添えている必要がある。
しかし従来のシステムでは、運転者がステアリングに手を添えているかどうかを確認するのに、ステアリングのトルクセンサーを使っていた点に難があった。トルクセンサーは、本来は運転者がステアリングを操作する力を検知して、モーターで操作力を補助するためのものである。このセンサーを逆に活用し、ステアリングを自動的に動かすときに抵抗があるかどうかで、手が触れているかどうかを判定しているのだ。
しかしこの方式だと、まっすぐな道を走行しているときにはステアリングを操作する力があまり発生しないので、手が触れていることで生じる抵抗を検知できず、「ステアリングに手を添えてください」という警告が出てしまう。こういう事態はけっこうひんぱんに発生するので、煩わしく感じていた。この点、静電容量式センサーは、手が触れているかどうかを直接検知するので、この煩わしさがなく快適だ。3D高精度地図を内蔵しているからか、クルマがステアリングを操作する際の修正も少ないように感じた。
車線変更時のステアリング操作支援機能も試してみたが、変更可能な状況では動作にもたつきもなく、安心して操作を任せられる。1回わざと、隣にクルマが並んで走っている状態で動作させてみたが、車線変更することなく、動作がキャンセルされた。
ハンズオフよりありがたい自動再発進
目玉機能であるハンズオフ機能を試すのには、高速道路で渋滞がタイミングよく発生してくれる必要があったのだが、運良く(?)渋滞に遭遇したのでさっそく動作させてみた。ハンズオフ機能を動作させるには、メーター内表示のステアリングの色がグリーンからブルーに変わらなければならないのだが、なかなか色がグリーンからブルーにならない。おかしいなあと思っていたら、渋滞がトンネル内で発生していることに気がついた。アイサイトXは、先に説明したように自車位置を準天頂衛星の高精度GPS信号を活用して検知しているので、これができないトンネル内では動作しないようだ。
ハンズオフ機能はメーター内のステアリングの表示がブルーになると動作させることが可能だ(写真:スバル)
しばらく待って、ようやくトンネルの外に出たのだが、すぐにはグリーンからブルーにならない。GPS信号をつかまえるのに時間が必要なのだろう。トンネルを出てから5〜6分経過して、ようやくグリーンの表示がブルーになったので手を離してみた。当然のことながら手を離してもそれまでと変わらず前のクルマの動きに合わせて自動的に発進、停止を繰り返す。ただ、ドライバーモニタリングシステムで運転者の顔の向きを検知しているので、よそ見していると警告されてしまう。
ただし、ここで筆者がありがた味を感じたのは、ステアリングから手を離せることよりも、いったん停止しても、前のクルマが発進すると、自動的に動き出してくれることだった。従来のアイサイトは、クルマが3秒以上停車すると、次に発進するときにはスイッチ操作をするかアクセルを少しだけ踏み込む必要があった。それがアイサイトXでは高速道路上であれば停止してから10分以内なら自動的に再発進するようになった。かなりひどい渋滞でも10分間クルマがまったく動かないということはまずないので、事実上、高速道路の渋滞中は、運転者は何もしなくても済むようになったわけだ。
このように、燃費がやや期待外れだったこと以外、新型レヴォーグの出来はほぼ死角がないと言っていい。COTY受賞も納得の仕上がりだと思うし、この開発で得た成果は今後のスバル車全体の水準を引き上げていくことになるだろう。ただ、個人的に一つだけ疑問だったのはフロントフードに設けられたエアダクトだ。もちろん、インタークーラーに冷気を取り込むという機能はあるのだが、高性能をこれ見よがしに誇示しているようで、ちょっと前時代的に感じてしまう。冷却の問題があるのかもしれないが、ここはエアインテークのないすっきりしたデザインとしたほうが、あらゆる部分が洗練された新しいレヴォーグのキャラに似合っていると思った。
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