この連載の前々回の記事「『カローラはSUV』の時代が来ても驚かない」では、初めて「カローラ」の名称が付けられたSUV(多目的スポーツ車)であるトヨタ自動車の「カローラクロス」の話題を取り上げたのだが、今回は独フォルクスワーゲン(VW)の“ゴルフのSUV”とでもいうべき新型SUV「T-Roc」について取り上げたい。T-Rocの「T」は、これまでのVWのSUVが「トゥアレグ」や「ティグアン」というようにTから始まる名称が付けられているのに由来し、またRocは「Rock」に由来していて、セグメントをRock(揺り動かす)存在になることを示しているという。

フォルクスワーゲンの新型SUV「T-Roc」。外装と内装をブルーでカラーコーディネートした「TDI Style Design Package」(写真:筆者撮影)
フォルクスワーゲンの新型SUV「T-Roc」。外装と内装をブルーでカラーコーディネートした「TDI Style Design Package」(写真:筆者撮影)
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 トヨタに負けず劣らず、VWは最近、SUVの製品ラインアップを充実させている。T-Rocは日本では2020年7月に発売されたのだが、その約半年前の2019年12月にもT-Rocより一回り小さい「Bセグメント」のSUV「T-Cross」が発売されたばかりだ。矢継ぎ早の製品投入の背景にあるのは、冒頭で引用した記事でも触れたように、クルマの主流がSUVになりつつあることだ。

激戦区のコンパクトSUV

 いまや世界で最も多く売れているVW車は「ゴルフ」ではなく中型SUVの「ティグアン」であり、日産自動車で最も売れているのはそのティグアンと同じクラスに属するSUV「エクストレイル」であり、ホンダではやはり同じクラスのSUV「CR-V」なのである。現在は「カローラ」が最も売れているトヨタ自動車でも、今年(2020年)にはやはり同じクラスのSUV「RAV4」が最も販売台数の多いクルマになるのではないかと予測されている。

 そしていま激戦区になっているのはそのすぐ下のコンパクトクラスのSUVだ。具体的には、全長が4.3m程度、全幅が1.8m程度、全高が1.55―1.6m程度、ホイールベースが2.6m程度のサイズである。ティグアンやエクストレイルの全長が4.5―4.6mなのに比べると一回り小さい。今回紹介するT-RocもこのコンパクトSUVに属する。筆者は今後、このサイズのSUVが各社とも最も多く販売するクラスになるのではないかと予測している。というのも現在、世界で最も売れているクルマのセグメントはゴルフの属するCセグメントであり、T-Rocはまさにゴルフに近い車体サイズだからだ。

各社のコンパクトSUVのサイズ比較(VWはT-Rocとともに、1クラス上のティグアンと1クラス下のT-Cross、参考としてゴルフも記載)
各社のコンパクトSUVのサイズ比較(VWはT-Rocとともに、1クラス上のティグアンと1クラス下のT-Cross、参考としてゴルフも記載)
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 T-Rocが投入されたコンパクトSUV市場の特徴は、各社ともデザインを重視した「クーペSUV」と呼ばれるタイプのSUVを投入していることだ。実際、VWもT-RocをクーペSUVと呼んでいる。コンパクトクラスでクーペSUVの先べんをつけたのは、日産自動車の先代「ジューク」だった。その後、ホンダが「ヴェゼル」、トヨタが「C-HR」、マツダが「CX-30」といったデザイン重視のSUVを相次いで発売した。これらは全高がおおむね1600mm以下と、SUVにしては全高を低く抑え、リアピラーをなだらかに傾斜させたクーペのようなスタイルを採用、いずれも好調な売れ行きを示している。

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