SUVが多様化
筆者の不明を恥じるしかないが、このデータで分かるのは、これまで「派生車種」というイメージが強かったSUVが、もう世界の市場ではとっくに主流の車種になっているという事実だ。これも最近の出来事だが、改めて「クルマの主流はSUV」になったのだという事実を突きつけられたのがグループPSAが2020年6月に発表した新型「C4」である。
C4はトヨタのカローラや、フォルクスワーゲンのゴルフなどが属するCセグメントのハッチバック車なのだが、従来のC4は派生車種としてC4ベースのSUV「C4カクタス」があった。ところが新型C4は、C4自身がSUVになってしまったのだ。

ここでやっと冒頭の問い「トヨタはなぜ今SUVの大幅な拡充に乗り出しているのか」に戻るのだが、もはや完成車メーカー各社は「派生車種としてのSUVを拡充する」という段階から、「主力車種をSUVに入れ替える」という段階に入っていることが、ここまで読んでいただいた読者にはお分かりいただけると思う。
SUVが派生車種ではなく、主流の車種なのだから、逆にSUVからの派生車種が多く登場しているというのが最近の傾向だ。それが顕著なのがジャーマン3と呼ばれるドイツ・アウディ、ドイツBMW、ドイツ・ダイムラーの3大高級車メーカーだ。
例えばBMWは、高級セダンの「5シリーズ」が属するEセグメントに、実用性を重視したSUV「X5」だけでなく、リアのデザインをクーペ風にしたクーペSUVの「X6」を用意している。Eセグメントだけでなく、Cセグメントでは「X1」と「X2」、Dセグメントでは「X3」と「X4」、Lセグメントでは「X7」に加えて今後「X8」を発売するといわれており(いずれも数字が偶数の車種がクーペSUV)、すべてのセグメントでクーペSUVをそろえている。こうしたクーペSUVの品ぞろえは、アウディ、ダイムラーでも進めている。
セダンがラインアップの中心ではなくなった
高級メーカーだけではなく、最近ではフォルクスワーゲンなどの大手メーカーもクーペSUVの品ぞろえを急ぐ。トヨタについていえば、CセグメントではクーペSUVの「CH-R」が先行し、これに実用性重視の「カローラ クロス」を追加するという、通常とは逆の順序になったが、Dセグメントでは、実用性重視の「RAV4」に、クーペSUVとしての「ハリアー」を追加した格好になった。ハリアーは以前からあるではないかという声が聞こえてきそうだが、先代ハリアーは、国内での根強い人気に応えて、ハリアーのポジショニングからすれば“格下”のCセグメント用プラットホーム「新MCプラットホーム」をベースに仕立てたモデルだった。
これに対して新型ハリアーは、RAV4やカムリと同じDセグメント用の新世代プラットホーム「GA-K」プラットホームを使い、また国内だけでなく海外市場も視野に入れたグローバルモデルとして企画され、すでに米国でも「Venza(ベンザ)」の名称で販売されているほか、中国市場にも投入されるなど、トヨタのSUV戦略の要として生まれ変わった。

これまでもカローラには、4ドアハードトップの「カローラセレス」など、多くの派生車種が存在したが、セダンがカローラの中心という位置づけは変わらなかった。しかし、シトロエンC4がSUVに生まれ変わったように、10年後にカローラという名称のクルマがSUVになっていたとしても、もはや筆者は驚かないだろう。それはひょっとするとセダンSUVという新しいジャンルかもしれないが。
1ページ目の本文中、『英国の大手自転車メーカーであるトレック』とありましたが、正しくは『米国の大手自転車メーカーであるトレック』でした。誤りを修正しました。[2020/7/29 10:10]
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「クルマのうんテク」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?