SUVは「もうかる車種」
多くの読者が先刻ご承知のように、SUV系の車種の拡充を図っているのはトヨタだけではない。既にこのコラムでも、マツダの「CX-30」や、トヨタの「ライズ」、グループPSAの「DS3 クロスバック」など取り上げる車種の多くがSUVになっている。今更という感じではあるが、どうして今SUVが増えているのか、その理由を改めて考えてみたい。
まずメーカー側から見た理由で最大のものは、これを言っては身も蓋もないが、クルマが高く売れるからだ。最も分かりやすい例でいうと、マツダの「マツダ3」と「CX-30」は、どちらもプラットホームを共有するCセグメント車であるが、搭載エンジンや装備を揃えて比較すると、CX-30のほうがだいたい10万円高い。マツダ3よりもCX-30のほうが全長、ホイールベースともやや短いにもかかわらず、である。
同様に、Bセグメントの「マツダ2」と「CX-3」を比べてみても、同じ1.5Lエンジンを積む「15S」というグレード同士で比べると、CX-3のほうが31万9000円も高いのである。もちろん、CX-3とマツダ2の間で若干の装備差はあるが、とてもこの価格差を正当化できるほどではない。つまり答えは1つ。「SUVである」ということが付加価値としてユーザーにも認められ、割高な価格が受け入れられているということだ。だからこそ、メーカーも、この「高く売れるセグメント」に多くの車種を投入している。では逆に、どうしてユーザーは「SUVである」というだけで余計なお金を払うのか。それを考えるには、SUVのルーツをひもとく必要がある。
もともとはトラックから派生
もともとSUVというジャンルが生まれたのは米国である。そして、SUVの出発点は、ピックアップトラックだった。1985年夏に公開され、大ヒットした映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で、マイケル・J・フォックス演じる主人公のマーティ・マクフライが憧れる「Dream Truck」として、トヨタのピックアップトラックの4代目「ハイラックス4×4 SR5 Xtra Cab」が登場したとき、筆者は心底驚いた。当時の日本では、若者が憧れるクルマは日産自動車の「シルビア」やホンダの「プレリュード」といった2ドアクーペだったから、当時の若者として、筆者にはマーティの心情が、まったくもって理解できなかったのである。

現在でも米国市場でピックアップトラックは圧倒的な人気を誇っている。その人気の理由は、もちろん大きな荷物を運べるなど実用性が高いこともあるのだが、それだけではない。1つには現在でも米国で脈々と息づいている西部開拓時代の精神に、武骨で力強いピックアップトラックがフィットするということがある。また、意外に思われるかもしれないが、ピックアップトラックは「所帯じみていない」というイメージが米国人にはある。
もともと2人乗りが多いピックアップトラック(現在では5人乗りなども多いのだが)は、家族で移動するには不向きなため、少人数で移動するパーソナルなクルマというイメージが強い。これはかつて、日本で若者に2人乗りクーペの人気が高かった理由と共通する。逆に日本で人気のあるミニバンは、所帯じみているという理由で米国ではかなり人気が廃れてきている。加えて、税制面でピックアップトラックが優遇されていることも、人気に拍車をかけている。
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