しかしトヨタのような規模の大きいメーカーでは、車種が多く、エンジンや変速機の種類も多岐にわたるため、クルマを構成するすべての要素を同時に一新するような改革を導入するのは難しいと考えられてきた。実際、マツダの担当者はSKYACTIVを導入した当初、「当社のような規模の大きくないメーカーだからこそできる強みを追求した。大メーカーにはすべてを同時に一新するのは難しいだろう」と語っていた。しかしトヨタは、まさにその困難に取り組んでいるところで、今回いよいよBセグメントにもその動きが波及してきたということなのだ。

 クルマを構成するすべてを一新する活動だけに、トヨタといえども一度に取り組むことはできない。最初にTNGAを採用した現行「プリウス」が発売されたのは約4年前の2015年12月だった。プリウスに採用されたプラットフォームはCセグメント向けの「GA-C」プラットフォームである。その後、現行型「カムリ」などにDセグメント向けの「GA-K」プラットフォーム、現行型「クラウン」や「レクサスLS」などEセグメント以上のFR(前部エンジン・後輪駆動)車向けの「GA-L」プラットフォームなどが商品化され、今回ヤリスに搭載されるBセグメント向けの「GA-B」プラットフォームがTNGAの思想に基づく第4弾のプラットフォームということになる。

エンジンも一新

 ヤリスで注目されるのは、プラットフォームだけでなく、エンジンも一新されたことだ。搭載エンジンは、ヴィッツでは排気量1.0L・直列3気筒、1.3L・直列4気筒、1.5L・直列4気筒(ハイブリッド向け)の3種類だったが、ヤリスでは排気量1.0L・直列3気筒のエンジンはヴィッツから改良して流用したものの、1.5L・直列3気筒エンジンを新開発し、エンジン車とハイブリッド車に搭載した。つまりヤリスのエンジン排気量は1.0Lと1.5Lに集約されたことになる。

ヤリスに搭載された新型1.5Lエンジン。直列3気筒で、2.0Lの4気筒エンジンから1気筒減らした「モジュールエンジン」だ。(写真:トヨタ自動車)
ヤリスに搭載された新型1.5Lエンジン。直列3気筒で、2.0Lの4気筒エンジンから1気筒減らした「モジュールエンジン」だ。(写真:トヨタ自動車)

 この新開発の1.5LエンジンはTNGAの設計思想がフルに反映されたエンジンだ。その成り立ちとしては、「レクサスUX」や米国向け「カローラ」などに搭載されている新世代2.0L・直列4気筒エンジンから1気筒減らしたもので、エンジン設計をモジュール化しているという点で、現在のドイツBMWの直列エンジンの考え方に似ている(BMWの1.5L・直列3気筒エンジンは、2.0L・4気筒エンジンから1気筒減らしたもの)。

 この新開発の1.5Lエンジンは従来エンジンよりも熱効率を2%向上させたとしており、ハイブリッド仕様向けの最高熱効率は40%を超えるようだ。ベースになった2.0Lエンジンもハイブリッド向けの最高熱効率を41%としており、ほぼこれに匹敵する数字と思われる。これにより、ヤリスのハイブリッド仕様のWLTCモード燃費は36km/Lと、ヴィッツハイブリッドのJC08モード燃費(34.4km/L)よりも向上している。ハイブリッド車の場合、WLTCモード燃費はJC08モード燃費よりも大幅に悪化することが多いので、数字の差以上に実力の差は大きいはずだ。

 例えばトヨタのSUV(多目的スポーツ車)「CH-R」の場合、ハイブリッド仕様の「G」グレードのJC08モード燃費は30.4km/Lだが、WLTCモード燃費は25.8km/Lと4.6km/Lも悪化する。ちょっと乱暴だが、この差からヴィッツハイブリッドのWLTCモード燃費を推定すると、恐らく30km/L程度だろう。つまりヤリスハイブリッドは、ヴィッツハイブリッドに比べて2割程度燃費が向上していると推定できる。そして実際、あとで説明するように、実用的な向上幅は2割どころではなかったのである。

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