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 首都圏や関西圏で緊急事態宣言が発令されて約2週間、世の中は物々しい雰囲気に包まれている。そんな中、のほほんとクルマを試乗しているとは誠に不謹慎ではないかとのお叱りがありそうなので、最初に断っておくと、今回と次回は首都圏の緊急事態宣言前に「乗りだめ」しておいたぶんである。筆者も日本国民の端くれなので、緊急事態宣言の発令後は自宅でじっとしている(近所へ散歩と日常の買い物くらいは出かけるが)。

「ヴィッツ」の後継車種として2月に発売された「ヤリス」。ハイブリッド仕様の「X」というベーシックなグレードだ。横から見ると従来のヴィッツよりもキャビンがコンパクトに見える。

 それに、普段ならメーカーから試乗車を借りるのだが、この時期、貸し出しの場所まで公共交通機関を使って出かけるのもはばかられるので、今回と次回は異例のことだが自宅近くでレンタカーを自腹を切って借り出すことにした。確かにレンタカー店のスタッフとは接触するが、まあ、スーパーマーケットのレジの店員さんとの接触と同程度なので、そこは大目に見ていただきたい(あれから2週間経ったが、おかげさまでいまのところ元気だ)。メーカーから借りる試乗車は最上級グレードである場合が多いのだが、レンタカーは安いグレードのことが多いので、ベーシックなグレードの実力を知るうえでも好都合である。

 ということで、今回まな板に載せるのは、トヨタ自動車が2月に発売した新型車「ヤリス」である。これまでの「ヴィッツ」の後継車になる。ご存じの読者もおられようが、1999年に「スターレット」の後継車種として発売された初代「ヴィッツ」は、欧州では当初から「ヤリス」の名称で販売されていた。今回の国内での名称変更によって、約20年を経て、ようやく日欧での名称が統一されたことになる。

最初のBセグ用TNGA

 ヤリスの最大の特徴は、Bセグメント車としては初めてトヨタの新世代技術「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」を採用したことだ。TNGAについてはこのコラムでも何度か取り上げているのだが、残念ながら古い記事は消えてしまっているので改めて簡単に説明すると、トヨタの言い方を借りれば「もっといいクルマ」を作るための包括的な取り組みである。単にエンジンやプラットフォームを刷新するだけでなく、クルマの開発プロセスから、製造工程までを含めた全社的な取り組みということになる。

ヤリスに採用された「GA-B」プラットフォーム。TNGAの思想に基づいた初のBセグメント向けプラットフォームだ。(写真:トヨタ自動車)

 例えばTNGAでトヨタが目指したことの一つに、クルマの運動性能を向上させるために重心を下げたことがある。しかし、これは言うほど簡単ではない。クルマの重心を下げようとすれば、エンジンの搭載位置を低くする必要があるが、既存のエンジンや変速機の寸法や構造、排気管の取り回しを前提にすれば、それにはおのずと限度がある。この限界を打破するには、エンジンだけ、車体だけといった「部分最適」の設計手法ではなく、車両を構成するすべての要素で「全体最適」を図る必要がある。

 このように、車両を構成するすべての部品を連携させて「理想構造」を追求した例としては、マツダの新世代技術「SKYACTIV」がある。マツダはSKYACTIVで、エンジン、変速機、車体、シャシーといった車両の構成要素をすべて同時に一新し、しかも個別最適ではなく、全体最適を追求することで、これまで達成できなかった水準の性能を実現することを目指した。