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SKYACTIV-Xはなぜ画期的か

 SKYACTIV-Xについては、既にこのコラムの「ベールを脱いだマツダの次世代『SKYACTIV』」で詳しく解説しているので多少繰り返しになるが、なるべく手短に説明しよう。

 その最大の特長はSPCCI(火花点火制御圧縮着火)と呼ぶ燃焼方式により大幅に燃費を向上させていることにある。燃費を向上させるのにリーンバーン(希薄燃焼)エンジンが有効なことは以前から知られているが、実用化に当たっての最大の問題は、排ガス中の酸素が過剰な状態になってしまうため、排ガスを浄化するための三元触媒が使えなくなってしまうことだ。

 三元触媒は、排ガス中のNOx(窒素酸化物)から酸素(O2)を奪って、HC(炭化水素)とCO(一酸化炭素を)を酸化する働きをする。これによりNOxはN2(窒素)に、HCとCOはH2O(水)とCO2(二酸化炭素)に変換され、無害化される。

 通常のエンジンでは燃焼に使われる空気と燃料の比率(14.7:1、理論空燃比と呼ぶ)になっているので、排ガス中には酸素が残らない。しかし希薄燃焼エンジンでは排ガス中に燃焼に使われなかった酸素が残ってしまう。この酸素が、三元触媒のNOxから酸素を奪う作用の邪魔をする。周囲にたくさん酸素がある状態で、NOxから酸素を抜くのは難しいからだ。

 そこで希薄燃焼エンジンではエンジンから出るNOxそのものを減らすことが求められる。燃料に対する空気の比率を理論混合比の約2倍にあたる30:1以上にすれば燃焼温度が下がり、排ガス中のNOxを減らせる。しかしこれだけ薄い混合気は燃焼させるのが難しい。点火プラグから火炎が伝搬する速度が遅くなってしまうためだ。

 そこで完成車メーカー各社が検討してきたのが点火プラグではなく、ピストンの上昇によって混合気が圧縮され燃焼室内が高温になるのを利用して着火する「圧縮着火」方式である。しかしこの方式では着火のタイミングを制御するのが難しく、これまで実用化した例はなかった。マツダはこの難問をSPCCIという新しい発想の点火方式で乗り越えた。これは、燃焼室内が高温になって爆発寸前の混合気の中でプラグに点火することによって、プラグの周囲に高温の「膨張火炎球」を生じさせ、“最後のひと押し”をすることで混合気に着火する技術だ。点火プラグを「火を点ける」のではなく圧縮着火のきっかけをつくることに活用したのがSPCCIの画期的な点だ。

「SPCCI(火花点火制御圧縮着火)」のイメージ。ピストンの上昇により圧縮されて高温になった混合気を、点火プラグにより生じた「膨張火炎球」により最後の“ひと押し”することで着火させる。(図:マツダ)