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すでに走り出している中国、米国

 このコラムの第122回では、中国の「雄安新区」について紹介した。同新区では、地上を走ることが許されているクルマは自動運転車だけで、その他の車両が通る道や鉄道はすべて地下を通す計画だ。最新の技術を取り入れた新しいモデル都市の開発を目指しているのだ。

 雄安新区だけではない。米グーグルの兄弟企業であるSidewalk Labs社はカナダ・トロントの港湾地区で再開発事業を手掛けている。この再開発事業では、雄安新区と同様に自動運転車や自転車を主に移動手段として想定している。建物は外に向けて開かれた構造とされ、住民はそれぞれが持つアカウントにより様々なサービスにアクセスすることが可能だ。

Sidewalk Labsがカナダ・トロントで進める港湾地域の再開発計画のイメージ(イラスト:Sidewalk Labs)

 Sidewalk Labsは「コミュニティーを再定義する」ことを目標に掲げている。街中に多くのセンサーやカメラを設置し、例えば公園のベンチがあまり利用されていなければ位置を見直すなど、常にデータを基に最適化を図る街になる予定だ。ただし、日経ビジネス電子版の記事「帝国になったGAFA 世界で民衆蜂起」で紹介されているように、市民から膨大なデータを収集することに関して危惧の声も上がり、Sidewalk Labsは計画の縮小を余儀なくされている。

 トヨタが進める新しい街では、当初の住民としてトヨタ関係者を想定していることもあり、データを収集することのコンセンサスは比較的得やすいと考えられる。また公道では自動運転車の運用に関して法規制の制限を受けるが、今回は私有地内での運用であり、その面でも自由度が高い。規模は小さいものの、「次世代の都市はどうあるべきか」を考えるための様々な試みをする自由度は高い環境だといえるだろう。

参加する個人や団体を広く募る

 トヨタは今回の街づくりを通して、デジタルツインやデジタルオペレーティングシステムなどの技術を開発する方針だ。デジタルツインというのは、バーチャル空間の中に実際の都市をデジタル的に再現したもので、建物や道路だけでなく、そこで暮らす人や車両の流れまでも再現し、現実の世界で何か実験をする前に、まずデジタル空間で実験し、ある程度完成度を高めてから現実に適用することが可能になる。

 またデジタルオペレーティングシステムの詳細はまだ明らかではないが、街全体を管理するデジタル的なインフラを指すと考えられる。単に街づくりをするだけでなく、それに伴うデジタルツインやデジタルオペレーティングシステムが開発できれば、より規模の大きい街づくりにも活用できるはずだ。その意味で、今回の街づくりは、東富士に新たな街ができるということにとどまらず、日本発の新しい街づくりを世界に向けて提案する起爆剤になる可能性を秘めている。

 もちろんそれはトヨタといえども単独でできることではない。実際、今回のプロジェクトでは、デンマーク出身の著名な建築家でビャルケ・インゲルス・グループ(BIG)CEOのビャルケ・インゲルス氏が都市設計などを担当する。BIGは、ニューヨークの第2ワールドトレードセンターやグーグルの新本社などのプロジェクトを手掛けてきた著名な建築家だ。

 また今回の会見で豊田章男社長は「将来の暮らしをより良くしたいと考えている方、このユニークな機会を研究に活用したい方、もっといい暮らしとMobility for Allを私たちと一緒に追求していきたい方すべての参画を歓迎します」と語り、同プロジェクトに参加する個人や団体を広く募ることも明らかにした。新しい街づくりにぜひ自分のアイデアを盛り込みたい、と考える読者がいたら、応募してみてはいかがだろうか。