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想定人口は2000人

 この街のWoven Cityという名称を聞いて、うまいこと付けたなあと感心した。直接の由来は、先程説明した3種類の道を網の目のように配置することなのだが、Woven(織られた)という表現は、トヨタの祖業である織機事業を思わせ、織機から自動車へ、そして今回の街づくりへというトヨタ自動車の事業の変遷への連想を誘う。

 さらに言えば、今回の街づくりを進めていくうえで、トヨタは世界中の企業や研究者に対して、実証への参画を募っている。街の道だけでなく、街の住民同士、あるいはそこに集う研究者同士が織りなすコミュニティーの形成まで視野に入れた、非常に巧みなネーミングだと思ったのだ。

 今回トヨタが建設する街の想定人口はおよそ2000人で、初期は、トヨタの従業員やプロジェクトの関係者を中心とした住民が暮らすことを想定している。ただし、70.8万m2に2000人というのはかなりゆったりした土地の使い方だ。例えば筆者の住む横浜市の人口密度は約8570人/km2で、この数字をそのまま当てはめると、70.8万m2という敷地には6000人を収容できる計算だ。つまりトヨタの想定は横浜市の3分の1くらいの人口密度であり、街には発展の余地がある。

“街”への進出は必然

 なぜ完成車メーカーであるトヨタが街づくりに取り組むのか。それは、近未来のクルマはもはや単独の「モノ」として存在するのではなく、「移動サービス」として「街」を構成する一つの要素となっていくと考えられるからだ。そうなれば、街のあり方も変わっていくだろう。単純な例を挙げれば、もしクルマが自動運転車を使った移動サービスに置き換えられれば、駐車場は不要になり、建物の設計や都市計画は大きく変わるだろう。これは土地の有効利用につながるが、逆に今よりも土地を必要とする面もある。

 今回、米国に行って空港やホテルなどで目についたのが、米ウーバーテクノロジーズなどのライドシェアサービスの車両を呼び出す場所が設けられていることだ。本来、ライドシェアサービスでは、自分の今いる場所にクルマが来てくれるというのが最大のメリットであるわけだが、空港や駅、ホテルのように、多くの人がクルマを呼び出す場所で各人が好き勝手にふるまったら、施設周辺は客を迎えに来たクルマで無秩序な混雑が発生してしまう恐れがある。だから、ライドシェア本来のメリットをある程度犠牲にして、ライドシェアサービスのクルマに乗り降りできる場所を決めているのだ。

 将来の自動運転技術を使った移動サービスでは、ライドシェアと同様の利便性を、人間の運転手が不要なぶん安く享受できるようになる可能性がある。そうなれば、現在のライドシェアサービス以上に利用者は増えるだろう。無秩序な利用を許したら、路肩に停車するクルマが増え、今以上に道路が混雑してしまうかもしれない。またそうした車両の多くはEVになると予想されるので、充電ステーションもいま以上に必要だろう。つまり、将来の移動サービスの普及を見通すと、街づくりの前提自体も変えなければならない。