もう2020年になろうとしているのに今さらという感じだが、2017年に世間をにぎわした言葉に「忖度(そんたく)」があった。「他人の気持ちを推し量る」という意味で、本来悪い意味はないはずだが、最近ではもっぱら「上司や目上の人の気持ちを推察し、配慮する」という意味になってしまった感じだ。もっと言えば「偉い人に配慮して、無理を通してしまう」というニュアンスか。

 こんな言葉を思い出したのは、日本自動車工業会(JAMA)が11月4日に閉幕した第46回東京モーターショー2019の来場者数を130万900人と発表したからだ。2017年開催の前回(約77万人)よりも7割近く増えたことになり、もしこれが本当なら喜ばしいことだが、残念ながらこの数字は額面通りには受け取れない。

 というのも、前回の77万人が有料入場者だけの数であるのに対し、今回の130万900人という数字は今回のモーターショーの有料会場である青海・西・南展示棟だけでなく、MEGA WEBや屋外のDRIVE PARKなど、無料エリアへの来場者数も含んでいるからだ。しかも、無料エリアへの入場者が出たり入ったりすればダブルカウントもあり得る。チケットを購入していない来場者を数えるのだから、チェックしようがない。少なくとも、前回より7割増とはやし立てるのはアンフェアだろう。

 加えて言えば、東洋経済オンラインの記事は、今回の東京モーターショーで、トヨタグループの部品メーカーや販売店に強力な動員要請があったことを伝えている。トヨタグループ挙げての来場ということになれば、かなりの数が上乗せされたことになるだろう。

トヨタが先頭に立って盛り上げたモーターショー

 なぜこんなことになってしまったのか。自動車工業会の現会長であるトヨタ自動車の豊田章男社長は、かねて今回の東京モーターショーで来場者数100万人を目指すと公言してきた。そして前回のこのコラム「実質『トヨタモーターショー』だった東モ」でもお伝えしたように、豊田社長自らがさまざまなイベントに参加し、先頭に立って集客に貢献していた。これほどまでに東京モーターショーの集客に熱心だった自動車工業会の会長を筆者は見たことがない。

トヨタブースでタレントの渡辺直美と対談するトヨタ自動車の豊田章男社長(写真:トヨタ自動車の公式ツイッターより)
トヨタブースでタレントの渡辺直美と対談するトヨタ自動車の豊田章男社長(写真:トヨタ自動車の公式ツイッターより)

 しかし、いや、だからと言うべきか、今回の130万人という来場者数が「豊田社長に忖度した数字」に見えてしまうのだ。そうでなければ、前回モーターショーと比較できるように有料エリアと無料エリアに分けて来場者数を発表することもできたはずだ。しかし今回、自動車工業会は内訳の数字を公表していない。先に参照した東洋経済の記事では、自動車工業会が当初「100万人の目標は有料エリアのみ」と説明していたにもかかわらず、結局有料エリアのみの人数は開示しなかったことも伝えている。

 今回の豊田社長の姿勢に筆者は「ここまでやるのか」と感銘さえ受けた。しかしそのことと、現実をありのままに認識することは別のことである。これまでにも繰り返しこのコラムで述べているように、モーターショーの衰退は今、先進国で共通の課題である。今回の130万人という来場者数が実態を覆い隠し、問題の所在を曖昧にしてしまっては、東京モーターショーを今後どうするのか、という議論の前提が変わってしまう。

 もちろん内部的には実態を反映した数字があり、それを基にして2年後の議論をするのだろうが、今後のモーターショー像を考えるうえで、もはや自動車業界の中だけで議論しても打開策は見いだせないだろう。だからこそ、正しい事実が広く公表されるべきなのだが、残念ながらその機会はないままに終わりそうだ。

 前回のコラムの繰り返しになってしまうが、筆者は今回のモーターショーのコンテンツの内容を全然否定していない。厳しい会場の制約の中で、出展各社は工夫していたし、テーマ展示にも新味があった。だからこそ、そうした関係者の努力の結果がどう出たか、という事実を正しく認識すべきだったと思う。

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