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 リアにモーターを搭載した最大のメリットは、車両レイアウトの自由度が増すことだ。後輪駆動仕様のMEB(MEBはフロントにもモーターを搭載した4輪駆動仕様もある)では、フロント周りには操舵(そうだ)装置や充電コントローラくらいしかない。客室の床下にはバッテリーが敷き詰められ、そして左右の後輪の間にはモーターが薄くレイアウトされている。つまり、車体の全長にわたって、フロアをかなり平たんにすることが可能だ。

ID.3に採用されたEV専用プラットフォーム「MEB」(写真:フォルクスワーゲン)

 加えて、車両が発進するときや加速するときには荷重は後輪に多くかかるから、駆動力を有効に路面に伝えるうえでも後輪駆動は有効だ。もしエンジン車だと、モーターほど薄くはできないから、床はフラットにできない。つまりこのレイアウトは、まさにEVのメリットを考え抜いたレイアウトといえる。だからこそ、このコラムの「トヨタの新戦略は『EVは売れない』を覆せるか?」や、「ついにホンダも発売 各社のEVが似るワケ」で触れたように、各社が開発するEV専用プラットフォームが、こぞって類似したレイアウトを採用するわけだ。

 VWはこのフラットな床面を活用して、MEBをID.3に続く様々な車種に採用する予定だ。実際、これまでにVWは小型バスのコンセプト車「I.D. Buzz Concept」や、SUV(多目的スポーツ車)のコンセプト車「I.D. CROZZ Concept」のほか、移動サービス向けの完全自動運転車をイメージしたコンセプトカー「SEDRIC」などを発表している。さらにVWはMEBを他の完成車メーカーにも供給する方針を明らかにしており、実際に米フォード・モーターがMEBを採用したEVを2023年から発売する予定だ。ID.3とそれに続くMEBを採用したEVは、まさにVWの社運を賭けた商品群といえる。

Honda eとの大きな違い

 このように鳴り物入りで登場したID.3だが、実車を見るとその造りはかなり堅実で、コストを強く意識したものだと感じた。それは、今回のフランクフルトモーターショーで量産モデルを初めて公開したホンダ初の量産EV「Honda e」と比べてみるとはっきりする。

 ID.3がCセグメントの車種であるのに対して、Honda eは一回り小さいBセグメントの車種だから、本来横並びで比較すべきではないのかもしれないが、実はID.3もHonda eも、ベーシックモデルの価格は約3万ユーロ(1ユーロ=120円換算で360万円)とほぼ等しい。だから、クラスが違うことを承知で両車種を比較することは意味があると思ったのだ。

ホンダが今回のフランクフルトモーターショーで公開したHonda eの量産モデル。写真で見るとスクエアな印象があるが、実物はかなり丸みを帯びたデザインだ

 まず、パワートレーンにコストをかけているのはID.3の方だ。ベーシックモデル同士の比較で、ID.3のモーター出力150kW、電池容量45kWh、航続距離330km(WLTPモード)と発表されているのに対して、Honda eは100kW、35.5kWh、220km(同)と、それぞれ低い。これはID.3が一家のファーストカーを目指しているのに対して、Honda eが都市内移動のためのコミューターと位置づけられているためだろう。