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道は1つではない

 ただし、環境への対応度合いを電動化率だけで評価するのは視野の狭い見方だろう。実際、ホンダは環境対応に対して「電動化だけが唯一の解ではない」というスタンスだ。ホンダはこれを「マルチパスウェイ」と呼んでいるのだが、要はCO2を削減する道は電動化だけではなく、ほかにもいろいろありますよ、という考え方だ。

 実際、電動化を進めるといっても、国によって発電の方法は大きく違い、火力発電の多い国では電動化が必ずしも環境にいいとは限らない。また大型のピックアップトラックやSUV(多目的スポーツ車)の多い米国ではEVだけで対応するのは難しいし、ブラジルではさとうきびから製造したアルコール燃料の利用を促進している。

 再生可能エネルギーの導入を積極的に進め、電動化につき進んでいるかに見える欧州でも、太陽光や風力で発電した電力をそのまま使うだけでなく、液体燃料に変換して使う「eFuel」の開発をドイツ・アウディなどが進めている。ホンダの言うマルチパスウェイは、再生可能エネルギーへの傾斜を高めながらも、それを電力だけでなく、水素や液体燃料など用途に最も合致した形で利用しようというものだ。様々な可能性に目配りし、必ずしも電動化一辺倒ではないことも、ホンダの目標が控えめに見える理由かもしれない。

初の量産EVの先行予約を開始

 とはいえ、ホンダの世界販売台数に占める電動車両の比率は2018年時点で7%程度であり、あと約10年でこの比率を9倍以上に高めるというハードルは決して低いものではない。ホンダが電動化比率を高める先兵となるモデルの1つが、年内に欧州で販売を開始するホンダ初の量産EV「Honda e」である。

 同モデルはホンダの電動化の先兵となるばかりでなく、欧州事業を立て直すための布石でもある。ホンダはことし3月のジュネーブモーターショーで、欧州では2025年までに販売するすべての車種を電動車両にすると発表している。つまり世界全体に先駆けて電動化を推進するわけだ。ホンダは2021年に英国とトルコでの現地生産を終了する方針を打ち出しており、欧州での販売車種は日本と中国で生産する。販売面で苦戦する欧州市場で、電動車両をテコに巻き返しを図ろうという意図が伺える。

 Honda eは、ことし3月のジュネーブモーターショーで量産車にかなり近いと見られるプロトタイプを公表し、すでに英国、ドイツ、フランス、ノルウェーなどでの先行予約が始まっている。航続距離は200km以上(WLTPモード)と発表されており、最近のEVとしては短い。電池の搭載量を少なくして価格も抑えた「シティコミューター(都市内の短距離移動向け車両)」という位置づけだ。

ホンダ初の量産EVとなる「Honda e」のプロトタイプ。まず欧州で販売する。(上)外観、(下)インストルメントパネル(写真:ホンダ)

 外観デザインは丸形ヘッドランプを採用したシンプルなもので、最近のホンダ車に多く見られる「眼ヂカラ」の強いデザインとは一線を画する。トレー形状を採用したインストルメントパネルと相まって、筆者のような昔の世代には初代「シビック」とイメージが重なる。初代シビックはオイルショック後の米国市場で爆発的に受け入れられ、また1970年代に米国で実施された排ガス規制「マスキー法」を世界で初めて達成した車種でもあり、ホンダにとって躍進のきっかけになったクルマだった。現代のような時代の変わり目で、再びホンダ躍進のきっかけにしたいという気持ちが表れているように筆者には感じられた。