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今回の改正内容を意外に感じた理由

 筆者が今回の道路交通法の改正で「ながら運転」を許す内容が盛り込まれたことを非常に意外に感じた理由は、従来、ドライバーがシステムの監視義務から解放放されている間に許されるのは、カーナビゲーションやメーターなどクルマと一体化されたディスプレーを使った作業に限られるというのが業界の一般認識だったからだ。

 例えばレベル3の自動運転の実用化を最初に表明した独アウディの「A8」は、ドライバーがシステム監視の義務から解放される運転条件を「高速道路の交通渋滞時(時速60km以下)」に限定したほか、運転していないときに許される作業を、車両に搭載されたディスプレーでメールを読むなど、クルマと一体化されたディスプレーでできるものに限定していた(しかし車両認証の条件が整っていないため、同車種がいまだにレベル3の機能を公道上で使えないことになっているのは先のコラムで解説した通りだ)。

 運転していないときに許される作業をクルマに一体化されたディスプレーでできることに限定したのは、手動運転が必要になるときでも、クルマからの警告にいち早く気づくことができ、機械から人へ、スムーズに運転を移行できるように配慮したためだ。このコラムの「“エンジンのホンダ”が静かに方針を大転換」でも紹介したのだが、ホンダが2017年の報道関係者向けイベントで公開した2020年のレベル3実現を目指す自動運転の実験車両でも、クルマに運転を任せている間に許される作業はカーナビの画面でできることに限られていた。

強引な議論

 なので、今回改めて「ながら運転」が可能になるに至った議論の経緯を調べてみたのだが、少なくとも公開されている記録を見ると、それほど丁寧に議論された感じがしなかったというのが正直なところだ。詳しい議論に関心がある読者は「平成30年度警察庁委託調査研究 技術開発の方向性に即した自動運転の実現に向けた調査研究報告書(道路交通法の在り方関係)」を参照していただきたい。

 例えば委員からは「ガイドライン上、ODD(自動運転システムが設計上想定する運転条件、筆者注)の範囲外となってから警告を発することも想定されている。警告が発せられた後、運転者が自らの運転操作に切り替えるまでにはある程度時間を要することを前提とすると、ODDの範囲外となってから警告を発する場合であっても、運転者が運転操作の引き継ぎを完了するまでの間は、安全な運転を確保するシステムが自動的に作動することにより安全を確保する設計が必要である」

という問題提起があったのに対して

「ODDの範囲外となってから警告を発する場合であっても、ODDの範囲外となると同時に警告を発する設計となっている。例えば凍結であれば、凍結路面に前輪が触れると同時に警告を発する」

 「なお、ODDの範囲外となる場合の警告については、自動運転車に備えられたセンサーや地図情報等を活用し、ODDを出そうであることを事前に予測し、時間的猶予を設けてあらかじめ警告を発する場合がほとんどである」

 「凍結、突然の豪雨、濃霧であっても、ODDの範囲外となってから警告を発する場合はレアケースである」

 「また、ODDの範囲外となってから警告を発する場合であっても、運転者が運転操作の引き継ぎを完了するまでの間は、緊急ブレーキやトラクションコントロール(スリップを防止する機能)等が自動的に作動し、交通の安全を確保する設計となっている」

 「ODDの範囲外となってから警告を発する場合はレアケースであり、かつ、このレアケースにおいても、ODDの範囲外となると同時に警告を発する設計となっており、また、警告を認知した運転者が運転操作の引き継ぎを完了するまでの間は、システムによって自動的に交通の安全が確保されることから、このような場合があることを前提としても、自動運転中の運転者は少なくとも警告を認知することができる程度の注意を払い、警告を認知すれば直ちにシステムの使用を中止し、自らの運転操作に切り替えることができる態勢であれば、交通の安全は確保される」

 というような説得がされたようだ。

 これも分かりやすい表現にすると「人間が運転を代わるのには一定の時間が必要だが、自動運転システムが対応できないような事態が起こるとしても、それは多くの場合事前に予測可能なので、引き継ぎの時間は確保できるし、予測できないようなレアケースでも、緊急ブレーキやトラクションコントロールで引き継ぎ時間は確保できるから大丈夫」というような感じだ。

 この「多くの場合予測可能」というのはちょっと楽観的に過ぎるし、緊急ブレーキやトラクションコントロールで常に安全を確保できる保証はあるのだろうか? という印象が筆者には否めなかったのだ。