トヨタはなぜCATLと組んだのか
しかし現在、そうした「電池が足りるのか?」という論調はほとんど見られなくなった。理由は電池メーカー各社、特に中国の電池メーカーの常軌を逸した生産能力の拡大ペースにある。それは、2017年に車載用リチウムイオン電池の生産量で世界最大のメーカーにのし上がり、今回トヨタが提携に踏み切ったCATLの生産能力の推移を見ればよく分かる。
2017年にそれまで世界最大の車載リチウムイオン電池メーカーだったパナソニック(+米テスラ)を抜いて首位に躍り出たCATLの生産量は11.2GWhだった。ところが翌2018年にはその2倍に当たる約24GWhに拡大し、ことし2019年にはさらに2倍以上の50GWh以上を生産する見通しだ。来年の2020年にはさらに1.6倍の80GWh以上を生産するとみられている。
3年後の2022年の生産能力は150GWh以上に達するみ見られており、2017年からの5年間で、生産能力を10倍以上に拡大するというペースだ。ちなみに今回トヨタがCATLと同時に提携に踏み切った中国BYDも生産量を2017年の7.2GWhから2022年には100GWhへと、やはり10倍以上に拡大するとみられている。しかもこれまで、中国の電池メーカーの生産能力拡大は、事前の予測を超えるペースで進んでおり、実際にはここに挙げた数字を上回るペースで能力の拡大が続く公算が大きい。
先に述べたように、テスラのギガファクトリーの投資規模から類推すると、CATLが2022年に到達するとみられる150GWh以上という生産能力を達成するためには2兆円以上の投資が必要になる計算だ。CATLは設備のほとんどを中国の設備メーカーから調達しており、それに土地代や労賃の違いなどを考慮すれば投資規模はギガファクトリーより圧縮されているはずだ。それでも膨大な投資であることに変わりはない。通常の電池メーカーなら尻込みするのが当然だろう。それは果たして、これだけの投資をして電池を量産しても、EVがそれに見合う数だけ売れるという保証がないからだ。
ではなぜCATLは投資できるのか。中国の中央政府は2017年4月に発表した「自動車産業中期発展計画」で、2020年の国内自動車市場を3000万台と予測し、そのうち新エネルギー車(NEV:EVやPHV、FCVを総称した中国の呼び方)を200万台とすると発表した。さらに2025年には市場規模3500万台に対して、NEVを700万台(シェア20%)にまで拡大する計画だ。
2017年のこの計画についても当初は達成を危ぶむ向きもあったものの、手厚い補助金政策や、都市部でのナンバープレート発行におけるNEV優遇などによって、2017年のNEVの販売台数は約78万台、2018年は約128万台を達成した。2019年も160万台の販売が見込まれており、2020年に200万台を販売するという目標の達成は確実視されている。
これまでの実績を見れば、中国の中央政府が本気でNEVの販売台数拡大を目指していることは明らかだ。2025年に700万台という目標も、達成を前提に完成車メーカー各社は計画を組まざるを得なくなった。逆に、電池メーカー側から見れば、中央政府が巨大なNEVの市場を確実につくってくれるわけで、安心して投資に踏み切れる。これが西側先進国とは事情が大きく異なるところだ。
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