良好な乗り心地
それでは、こうした改良の成果はどうなのか。今回も走り出してみよう。走り出して印象的なのは軽快な走りだ。車両重量が約2tもある重いクルマだが、エンジンのトルクが向上しているのに加え、8ATの恩恵で発進時のギア比が低くなっていることもあって、アクセルを少し踏むだけで、必要な加速力が引き出せる。
ただし、今回の改良では遮音材や静音材を増やし静粛性を向上させたということだが、加速時にはディーゼルエンジンらしいちょっとカラカラとした音がはっきりと室内には入ってくる。決して不快なレベルではないが「静かなクルマだな」という印象はあまり受けなかった。残念ながら従来型のD:5には試乗したことがないので、比較してみればその改良ぶりが分かったのかもしれない。
新たに採用した8ATは、変速段は多くても変速が滑らかなため変速動作が頻繁に行われても煩わしい感じはしない。また、これは三菱自動車独自のセッティングなのだと思うが、アクセルオフの動作がすばやいときにはシフトアップを抑制する制御が組み込まれている。今回の試乗コースは御殿場から箱根方面に上がっていってまた下りてくるというものだったが、芦ノ湖スカイラインを走っている際にカーブ手前でアクセルオフしてもシフトアップされず軽いエンジンブレーキがかかるので運転しやすい。
足回りのセッティングは乗り心地重視だ。オフロードにおける路面へのタイヤの追従性を考えても、このクルマのキャラクターを考えても、そのセッティングは正解だと思うが、今回の試乗コースはあまり得意ではなかったかもしれない。芦ノ湖スカイラインのカーブを曲がるときのロールは大きめだし、ステアリングに対する応答も穏やかだから、あまり飛ばそうという気持ちにはならない。D:5は従来型と同様2列目、3列目シートの居住性も優れており、家族と一緒に移動することも多いと思われるので、運転するお父さんは安全運転に徹したほうがクルマにも家族のためにもいいだろう。
燃費が気になる読者もいると思うが、1時間ほどかけて御殿場から上って下りてきた平均燃費は燃費計の読みで12km/L程度だった。これは燃費投稿サイト「e燃費」に掲載されている従来型デリカD:5のディーゼル仕様の平均燃費(10.6km/L、2019年3月19日時点)よりも10%以上いい数字で、尿素SCRの採用の効果が出たといえる。従来のJC08モードよりも実用燃費に近いと言われるWLTP燃費(平均)の値は新型デリカD:5の場合12.6km/Lで、今回の燃費はこれに近い。実用燃費では十分12km/L以上が狙えるだろう。車両重量がほぼ2tあるクルマとしては上出来ではないだろうか。
総じていえば、新型デリカD:5は部分改良とはいえ、全面改良に近い変更を受け、最新の競合モデルにもひけをとらない内容になったと思う。特に内装は全面的に変更され、質感も大幅に向上しているので、ドライバーだけでなく同乗者の満足度も高いだろう。またこれは部分改良前からの特徴なのだが、競合他車の多くが車体サイズを5ナンバーサイズにとどめているのに対して、デリカD:5は3ナンバーサイズで車体幅が10cmほど広いので、その分室内スペースに余裕があるのも魅力だ。最近のミニバンではグリルを大型化したデザインが人気で、新しいデリカのフロントデザインはその流れに沿いつつも個性を主張していて、以前からのデリカファン以外のミニバンユーザーも引きつけそうだ。
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