具体的には尿素水(業界ではアドブルーと呼ぶ)を排ガス中に噴射して排ガス中のNOxを選択的に除去するというものだ。尿素水は高温の排ガス中に噴射されるとアンモニア(NH3)に変化し、このアンモニアが、排ガス中のNOxをN2(窒素ガス)とH2O(水)に分解する。ディーゼルエンジンは酸素が過剰な状態で燃料を燃焼させるのが特徴で、そのために排ガス中にも燃焼に使われなかった酸素が大量に残っている。こういう酸素が周囲に多量に存在する状態でNOxから酸素を引き離すという離れ業をするのが尿素SCR触媒という仕組みだ。このアンモニアのように、酸素を引き離す役割を果たす化学物質を「還元剤」という。

デリカD:5に採用された尿素SCR(選択還元触媒)。排ガスに尿素(アドブルー)を噴射するとアンモニア(NH<sub>3</sub>)に変化し、NOx(窒素酸化物)をN<sub>2</sub>(窒素)とH<sub>2</sub>O(水)に分解する(資料:三菱自動車)
デリカD:5に採用された尿素SCR(選択還元触媒)。排ガスに尿素(アドブルー)を噴射するとアンモニア(NH3)に変化し、NOx(窒素酸化物)をN2(窒素)とH2O(水)に分解する(資料:三菱自動車)
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燃料を還元剤として使用

 従来型デリカのディーゼルエンジンでは、排ガス中のNOxを浄化する還元剤として燃料を使っていた。そう説明すると「?」と感じる読者もいるかもしれない。順序を追って説明すると、従来型のデリカのディーゼルエンジンでは、排ガス中のNOxを浄化するために「NOx吸蔵還元触媒」という触媒を使っていた。この触媒は排ガス中のNOxを選択的に内部に取り込んで、外部に放出されないようにする役割を果たす。しかし、内部に吸蔵できる量には限度があるので、どこかのタイミングでNOxを放出させなければならない。

 そこでNOxがある程度たまってきたら、エンジンで燃焼が終わったタイミングで燃料を燃焼室内に噴射する。すると燃料は燃えることなく排ガスとともにエンジンから排出される。燃料というのは炭素(C)と水素(H)と酸素(O)でできているから、このCとHが、NOx吸蔵触媒に到達すると、吸蔵されているNOxからOを奪い取り、NOxがN2に変わる。つまり燃料が還元剤としての役割を果たすわけだ。

 ただしこの手法には難点がある。NOxの還元のために余計な燃料が必要になり、燃費が悪化することだ。走行条件にもよるが3~5%程度燃費が悪化すると言われている。これに対して尿素SCRはNOxの還元に燃料を使わないので燃費が悪化しない。排ガスを浄化するための尿素水を補給する必要はあるが、約1万5000km走行毎が補給の目安で、一般的なドライバーなら1年点検や車検のタイミングで補給すれば済む。尿素水のコストも燃料よりは低くて済む。

 エンジン自体も改良した。主要な運動部品を約17%軽くすることでエンジン各部の摩擦を減らし、燃焼室形状の変更、燃料噴射装置の改良などをすることによって、最大トルクは従来よりも5.6%高い380N・mになった。

 変速機は従来の6ATから8ATに代えることで変速比の幅が従来の6.13から7.80へと27%広くなった。このため低速側では従来より8%ギア比を低く、逆に高速側では18%ギア比を高くすることが可能になった。発進時の出足はより鋭くなる一方で、高速時のエンジン回転数はより低くできるので燃費の向上にも貢献する。このほか足回りの改良や、パワーステアリングを油圧式からデュアルピニオン電動式に代えるなど、改良は細部に及ぶ。

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