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なぜこれまで実用化できなかったのか?

 これだけ有利な特徴を備えていながら、なぜこれまで全固体電池は実現しなかったのか。最大の理由は「イオン伝導率の高い固体電解質がこれまで見つかっていなかったから」に尽きる。イオン伝導率とは電解質の中でイオンが移動しやすいかどうかを示す指標だ。先に説明したように、リチウムイオン電池は正極と負極の間でリチウムイオンが電解質を伝わって移動することで充電・放電をしている。電解質の中でリチウムイオンが移動しにくければ、十分に充電や放電ができない、すなわち電池としての性能が低いということになる。ここにきて全固体電池の開発が活発化しているのは、既存の液体電解質を上回るイオン伝導率を示す新しい固体電解質を東京工業大学とトヨタ自動車などが共同で開発したためだ。

 ただし、この固体電解質が開発されただけで、問題がすべて解決したわけではない。両社が開発した新しい固体電解質は硫化物、すなわち硫黄の化合物で、発火しやすく、また水に対しても弱いという難点がある。このため電池の製造プロセスではこうした点に配慮する必要があるし、電池にしたあとも、防水や発火に対する対策が必要になる。こうした難点があるため、硫化物の固体電解質を否定的に見る研究者も少なくない。

 また量産プロセスの確立も課題だ。硫化物系の固体電解質は新しい材料のため、コストまで考慮した工業的な製造プロセス、さらには材料を電池にするプロセスもまだ確立されていない。トヨタが目指す2020年代前半の実用化という目標は決して容易なものではない。実際トヨタ自身も、2020年代前半の実用化は限定的な規模で考えているようだ。

 こういう経緯があるので、2019年中の量産化を目指すことを表明した日立造船の発表が注目されたわけだ。ただし、日立造船が量産化する最初の全固体電池は、ここまで紹介してきたような特徴をすべて実現したものではない。日立造船の全固体電解質は、トヨタなどと同様の硫化物系なので、安全性の確保が優先される。このため、セルの構造などはかなり安全性を重視しており、そのぶんエネルギー密度は犠牲になっているようだ。製造コストもまだ高い。日立造船も将来的にはEVなどへの応用を目指すものの、量産当初の応用分野は-40~100度という広い動作温度範囲や、液体成分がなく膨張が抑えられるため真空中でも使える、といった特徴を生かして、宇宙機器など使用条件の厳しい用途向けでの実用化を目指している。

 一方のFDKの全固体電池は、すでに2018年12月からサンプル出荷に踏み切っているのだが、これの大きな特徴は、もはや電池というよりも一種の電子部品として扱えるということだ。FDKの全固体電池は、正極、固体電解質、負極などの粉をシート形状にして積層し、焼き固めて造る。つまり、セラミックスを製造するのと同じプロセスだ。採用している固体電解質は硫黄系ではなく酸化物系で、硫黄系に比べてイオン伝導率は低く、電池のエネルギー密度は26Wh/Lと、現行のリチウムイオン電池に比べても1/8程度にとどまる。

FDKの全固体電池の製造プロセス

 エネルギー密度は低いものの、酸化物系の固体電解質には硫黄系固体電解質のように水に弱い、発火性が高いという弱点がないことから、より信頼性が高い。このため液漏れがなく長寿命で、広い温度範囲で使えるなどの特徴を生かし、プリント基板上に電子部品と同様に実装してしまい、交換しないで使うことができる。電子機器に内蔵した時計の電源として使ったり、IoT機器の電源として使えば、電池交換が不要となってメンテナンスコストを削減できる。寿命が長いLED照明が家庭内の主流になり、照明器具も電球を交換できない構造のものが増えている。「電球は交換するもの」という常識がなくなりつつあるわけだが、全固体電池が普及すれば、電池の分野でも「電池は交換するもの」という常識はなくなるのかもしれない。