リチウムイオン電池は、電解液の中に負極と正極を浸した構造をしている。現在のリチウムイオン電池のほとんどは、正極がリチウムを含む化合物、負極は炭素でできている。ごくごく単純化してリチウムイオン電池の充電・放電の原理を説明すると、充電のプロセスでは正極側から負極側にリチウムのイオンが電解液中を移動して負極に取り込まれ、放電のプロセスでは負極にたまったリチウムイオンが電解液中を正極側に移動する。充放電はこの繰り返しである。つまり電解液というのはリチウムイオンが移動できる性質を備えた液体ということになる。現在のリチウムイオン電池の多くはこの電解液に有機化合物の液体を使っている。

 しかし電解液に有機化合物の液体を使っていることで、従来のリチウムイオン電池はいくつかの課題を抱えていた。一つは安全性の問題である。有機化合物の電解液は可燃性なので、もし何らかの形で電池に過重な負荷がかかって電池の温度が上昇すると、最悪の場合燃えてしまう可能性があるのだ。またこの有機化合物の電解液は高温や低温に弱い。高温域では沸騰や揮発のため70度が事実上の上限であり、また低温ではイオン伝導性が低下するため、下限は-30度程度とされてきた。

 これに対して全固体電池は、この電解液を固体に置き換えたものだ。より正確にいえば、内部をイオンが伝導できる固体「固体電解質」に置き換えたものである。現在活発に開発が進められているのは、硫化物や酸化物といった無機材料だが、樹脂系の材料を検討する企業もある。ちなみに今回紹介する日立造船は硫化物系、FDKは酸化物系だ。こうした硫化物や酸化物は製造プロセスで500~1000度に加熱するので、そもそも耐熱性が高い。100度という高温でも動作可能だ。一方で低温側は、性能が低下するのは有機系電解液と同じだが、低下の度合いが少なく、-30度も実用域になる。さらに、従来のリチウムイオン電池のような液漏れが発生しないので真空中のような厳しい環境でも使える。このため、宇宙のような厳しい環境でも使えるという特徴がある。

小型にでき急速充電も可能

 しかし、全固体電池が注目されている理由はこうした悪環境に強いことだけではない。電池の画期的な小型化が可能で、しかも数分というような急速充電が実現できるという点が注目されているのだ。

 全固体電池でなぜ電池を小型化できるのか。電解質は単にイオンが移動するだけの物質なので、これが液体から固体に変わっただけでは電池のエネルギー密度(単位体積当たり、あるいは単位重量当たりに蓄えられるエネルギーの量、ここでは自動車で重視される体積エネルギー密度のことを単にエネルギー密度と呼ぶことにする)は上がらない。

 にもかかわらず電池の小型化が可能な理由の一つは、熱に強いことだ。現在のリチウムイオン電池は熱に弱いため、急速充電時や高速走行時(大電流の放電時)に発生する熱を逃がすために、電池の周囲に隙間を置いて搭載しており、冷却装置を搭載する場合も多い。全固体電池は熱に強いので、この隙間を小さくしたり、冷却装置を省くことが可能になる。

 また、構造的に熱の発生そのものを抑えることが可能だ。現在のリチウムイオン電池は複数の電池セルを直列につないでモーターの駆動に必要な高い電圧を得ている。これに対して全固体電池は、多数の電池セルを積み重ねたような構造にすることで高い電圧を得ることができる。正極と負極を裏表に張り合わせたような形でセルを積み重ねていくので、セル間を流れる電流は非常に断面積の大きい経路を流れていくことになり、セル同士を配線で結ぶ従来型の電池に比べて電気抵抗を大幅に低くできる。これが、大電流が流れたときに発生する熱を少なくできる理由だ。

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