全4017文字

目からウロコのモーター構造

 今回の研究開発成果披露会では、このほかにもいくつか自動車関連の新技術が披露された。その一つは小型化と高出力化を両立したハイブリッド車(HEV)用の駆動システムだ。このシステムはモーターを駆動するための回路を内蔵したパワーユニットと、モーター本体から構成されている。いずれも体積当たりの出力で世界最高クラスの水準を実現している。

世界最高水準の小型化を実現したパワーユニット(上)とモーター(下)

 このうち、パワーユニットのほうはモーターを駆動する回路にSiC(シリコンカーバイド)素子を用いたのが特徴だ。SiCは現在のモーター駆動回路に使われているSi(シリコン)に比べると、電流をオン・オフするときの損失が小さいのが特徴だ。このため回路の効率を高めることができ、エネルギー消費を減らせる。損失に伴う発熱量が減るうえ、Si素子よりもSiC素子のほうが耐熱性が高いので、そのぶん放熱部品が省ける。このため機器の小型化に有利だ。

 こうしたSiCの特徴を生かして、2017年には体積が5Lという発表当時業界最小のパワーユニットを発表していたのだが、今回は部品配置の密度を上げたり、配線の構造を工夫したりして、従来の半分近くの2.7Lまで小さくした。これがどのくらい小さいかというと、例えばトヨタの現行型「プリウス」のパワーユニット〔トヨタはパワー・コントロール・ユニット(PCU)と呼ぶ〕は8.4Lあり、今回の開発品の3倍以上だ。三菱電機の開発品とトヨタのPCUでは出力の仕様や機能が異なるので厳密な比較にはならないのだが、今回の三菱電機の開発品がどのくらい小さいか、目安にはなると思う。

 一方、モーターのほうも従来に比べると同じ出力なら2~3割程度の小型化に成功した。この小型化を可能にしたのが、回転方向に対して非対称な構造にしたことだ。モーターのローター(回転する部分)には永久磁石が埋め込んであるのだが、従来のモーターは他社製品も含めて回転方向に対して対称な配置で磁石が埋め込んであることが多かった。しかし、クルマはほとんどの場合前進しており、バックで走る距離は非常に少ない。ということはモーターも、前進方向に回転していることはほとんどだということだ。三菱電機はこの点に注目して、前進方向に回転するときにトルクを確保するのが有利な非対称の配置を採用した。このため逆回転のときの出力特性はいくらか犠牲になっているのだが、バックで高出力を必要とするような状況は考えにくいから、とても合理的な考え方で、なんで今までこの発想がなかったんだろう、と目からウロコが落ちる思いだった。

ローター内部の磁石の配置を回転方向に対して非対称にした(資料:三菱電機)

 あまり知られていないことだが、三菱電機は電動パワーステアリング用のモーターで世界でもトップクラスのシェアを占めており、またハイブリッドシステム用のインバーター(モーターを制御する回路)をホンダに提供するなど、縁の下の力持ち的な存在である。今回の披露会でも、自動車関連ではこのほかセキュリティ関連や不特定多数のユーザーが何語を話すか分からない状況でも高精度な音声認識を実現する「シームレス音声認識技術」、高精度な造形物ができる金属3次元プリンターの新技術などを展示した。クルマの電動化や電子化が進展すれば、縁の下で支える場面がますます増えそうだ。