全5868文字

 燃費向上効果は高いものの、積載スペースやコスト面で小型車向けに展開するのは難しいと見られてきたi-MMDだが、最近では日産自動車がi-MMDに近い構成の「e-POWER」を「ノート」のようなコンパクトクラスにも展開するなど事情が変わってきた(ただしe-POWERは直結モードを持たないため高速クルーズ時の燃費は不利)。このためホンダもフィットのようなコンパクトクラスにもi-MMDの搭載を拡大するのではないかと見られてきたのだが、インサイトに新開発のi-MMDが搭載されたことでにわかに現実味を帯びてきた。

 というのも、従来のi-MMDが排気量2.0Lのエンジンに出力が107kWのモーター、容量が約1.3kWhのリチウムイオン電池を組み合わせていたのに対して、インサイトに搭載されている新開発のシステムは、排気量1.5Lのエンジンに出力が80kWのモーター、容量が約1.1kWhのリチウムイオン電池を組み合わせる、より小型の車種向けの仕様になっているからだ。現在、フィットハイブリッドや「フリードハイブリッド」「ヴェゼルハイブリッド」などに搭載しているi-DCDはすべて1.5Lエンジンとモーターを組み合わせていることを考えると、今後、インサイトに搭載されたi-MMDがi-DCDに代わってホンダのコンパクトクラスに広がっていく可能性が高い。

 小型化されているだけでなく、従来のi-MMDに比べて大きく進化しているのは、モーターに重希土類元素(ジスプロシウム、テルビウム)をまったく使わないネオジム磁石を使っていることだ。これらの重希土類元素は主に中国で生産されるため、尖閣諸島の問題で日中の関係が悪化した際、中国が輸出制限を実施したため急激に高騰した。このためホンダはこれらの元素を使わないモーターの開発に取り組んできたのだが、問題は磁石の耐熱性が低下してしまうことだった。そこでホンダは、モーターの冷却方法を工夫することでこの問題を克服した。

上質な走り

 いつにもまして前置きが長くなってしまったが今回も走り出してみよう。すぐに感じるのは走りの質感の高さだ。最近では日本のCセグメント車でも、マツダ「アクセラ」、スバル「インプレッサ」、トヨタ「カローラスポーツ」など欧州の競合車種にひけを取らない走りを実現している車種が増えているが、そうした中にあっても新型インサイトは欧州のプレミアム車に比べても遜色のない水準の乗り味だと感じた。

 その質感の高い走りを支えているのが高い車体剛性であり、当たりは柔らかいがコシの強さを感じさせる足回りだ。国産のCセグメント車は欧州車に比べると乗り味の重厚さではまだ一歩譲る場合が多いのだが、インサイトは車体がCセグメントの中でもかなり大きく、ハイブリッド車ということで車両重量が重い(といってもメルセデス・ベンツAクラスやBMW 1シリーズと同程度だからハイブリッド車としては軽く仕上がっている)ことも有利に働いていると思う。加えて内装の質感も高く、この面でも欧州のプレミアム車に比べてそん色ない。

 そしてこれら欧州の競合車種に比べた強みは、大出力モーターを搭載していることを生かした圧倒的な発進加速だ。最近の欧州Cセグメント車ではダウンサイジングターボエンジンを搭載した車両が主流となっている。ターボラグもだいぶ改善しているとはいえゼロではない。エンジンよりもはるかに応答が早いモーターで加速するインサイトは、低速から大トルクが立ち上がり、回転も静かで滑らかなモーターの特性と相まって、加速の爽快さは競合他車を凌駕する。

 もう一つの強みが高い燃費性能だ。今回100km近くを試乗したトータルの平均燃費は22km/Lだった。一般道は交通の流れによって異なるが20~25km/L、高速道路が26km/Lという値で、これだけの出力特性と1.4t近い車両重量を思えば上々だろう。競合するトヨタ・プリウスの実用燃費が23~24km/Lなのと比較しても遜色ない値で、価格帯で競合する欧州Cセグメントのプレミアム車種が12~13km/Lくらいであることを考えれば燃費面では圧倒的なアドバンテージがある。

 ただし、この文章の始めのほうでも触れたように新型インサイトのデザインは上質さを感じさせるものではあるのだが、やや華に欠けており、分かりやすい高級さの演出ではまだ欧州のプレミアム車には一歩譲る。ハイブリッド車なのだから割高なのは仕方ないとはいえ、インサイトの価格帯は約326万~363万円と完全に欧州のCセグメント・プレミアム車種と重なる。結構な値段のいいクルマなのだが、見た目からそれを理解してくれる人が少なそうなところが新型インサイトのもったいないところだ。