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 また、同様に実際にはクルマに乗っていない友人のアバターと同乗して一緒に会話したりしながらドライブを楽しむことも可能だ。先程の周囲のインフラからの情報が、運転するうえでの安全性や利便性を向上させることに目的があったのに対して、メタバースからの情報は、リアルな世界とバーチャルな世界を結びつけて、クルマを移動するコミュニケーションツールにしてしまうのが目的である。この、新しい形でのコミュニケーションを、日産はクルマの新しい価値にしようとしている。

 たとえ大型化したとしても表示する場所が限定されてしまう液晶に比べて、ARゴーグルは視野の広い範囲に情報を表示でき、後ろを振り向くと、自分の背後の景色も表示されるなど、より没入感が高い。一方で、現在のARゴーグルはまだ大きく重く、装着感が自然とは言い難い。

 ただし、今回のCESでは小型化が進むARゴーグルなどの展示もあり、将来的には現在のメガネをかけるような感覚で装着できるようなARゴーグルも登場する可能性がある。そうなれば、クルマの内部には何のディスプレイも不要になるかもしれない。事実、日産の展示ではデモカーの内部に何のディスプレイもスイッチもなかった。

 すでにドイツ・ダイムラーは大型の液晶画面を採用した「MBUX」と呼ぶHMI(ヒューマン・マシン・インタフェース)を搭載している。これに「ヘイ、メルセデス」と呼びかけると起動し「今日の天気は?」「エアコンの温度を24度にして」「私のプレイリストをかけて」といった音声によるコマンドを実行する音声認識技術を搭載している。BYTONの車両も当然のことながらこうした音声認識技術には対応済みだ。近い将来のクルマではますます「大型ディスプレイ+音声認識」を搭載するものが増えるだろう。

ドイツ・ダイムラーの「MBUX」。すでに新型「メルセデス・ベンツ Aクラス」などに搭載されている

 しかしその先はひょっとすると、誰もがサングラス程度の大きさのARゴーグルを装着してクルマに乗るようになるのかもしれない。いや、クルマから降りても、常にARゴーグルを装着し、その場にいない人とコミュニケーションし、見えない情報にアクセスしながら生活するようになるのかも……。いま、筆者がこの原稿を書いている側で、家族が映画「マトリックス レボリューションズ」を見ているのだが、街を歩く誰もが「エージェント・スミス」のような姿で歩く未来はあまりぞっとしない。