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発達障害である自閉症は、人口の2%に及び、“グレーゾーン”も入れると1割を超すという。現在の診断名は「自閉スペクトラム症」で、かつてのアスペルガー症候群も含め、その現れ方は様々だ。そんな自閉症への理解を深めるために、日本の研究と治療と支援をリードしてきた医師、神尾陽子先生の研究室に行ってみた!その5回目。(文=川端裕人、写真=内海裕之)

 自閉スペクトラム症が、その名の通り、定型発達から非定型発達まで連続的な分布を示すことが分かったならば、素朴な疑問が湧いてくる。

 ほんの少しスコアが低い(自閉症傾向が小さい)だけとか、診断に必要な要素が一つ足りないとかで、自閉スペクトラム症の診断を受けない子たちは、全く問題なくやっていけるのだろうか。今や分布の連続性が分かり、時間とともに症状の軽重や傾向も変わりうることが分かっているわけで、疑問がつきない。

 神尾さんはこの、興味深い領域について語る前に、少し言葉をためた。

「ちょっと余談なんですけど、大人を対象にした普通の精神科医と子どもを相手にする児童精神科医は、ある面ですごい仲が悪かったんです。もちろん個別の誰先生と誰先生がという話ではなくて、関心の方向が違うんです。児童精神科医にとって、自閉症を含む発達障害は大きな問題ですが、一般の精神科はそれほど関心がなかったんですよね。むしろ統合失調症ですとか、昔から精神科医の関心の中心だった重度の精神病に関心が強くて、『大人の発達障害』が問題になってきた時に、あるシンポジウムに呼ばれて話したところ、『児童精神科医がさぼっているから、大人の発達障害が精神科に来たんじゃないか』とか言われてしまって(笑)」

発達障害の研究と支援に力を入れてきた神尾陽子さんに聞く。
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 大人の発達障害というのは、まさに、自閉スペクトラム症やADHDのような発達障害の症状を大人が持つ場合があって、注目が集まり始めた時から語られるようになった言葉だ。精神科医は、こういったものを児童精神科医の「怠慢」つまり、本来、子どもの頃に診断してくおくべきものを診断していなかったと捉えていたわけだ。

 しかし、それは本当にそうなのだろうか、というのが神尾さんの問いである。