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 さて、坂井さんは、天文学の中でも「星間物質の化学」と「星惑星形成」という研究ジャンルの境界で、ひとつのサブジャンルを深めるような研究をしてきたわけだけれど、今では坂井さんが巣立った東大の研究室で、後輩たちも次々と新しい方向に研究を展開している。

 これまで語られたようなキーワードでネット検索してみると、本当に興味深い研究が目白押しなので、これらについても坂井さんに聞いてみた。

 「私の研究では、炭素鎖分子が原始星円盤の端のところまで見つかるのに、内側では急に別の分子が増えるというのを見つけましたが、じゃあ、ギ酸メチルがある天体ではどうかというのを、私が東大の助教だった時の学生さんが、へびつかい座の天体で明らかにして論文にしました。今は助教になっている大屋瑶子さんです。化学的な組成が違っても同じ構造になっていると分かって、これは大きな成果です。さらに、大屋さんが指導している学生の大小田結貴(おおこだ ゆき)さんが、生まれたばかりの原始星にも惑星系のもとになる円盤構造がもう出来ているのを見つけたり、どんどん新たな研究の枝を広げています」

 大屋瑶子さんの研究は2017年の東大総長賞を受賞し、2018年には優秀な博士論文に贈られる井上研究奨励賞を受けた。大小田結貴さんは「BBCが選ぶ100人の女性2018」の1人に選ばれた。科学的な成果としても、社会的なインパクトとしても、とても評価されている。

 坂井さんが探求してきたことが、さらに大きな発展を生む契機となり、より広い視野の中に位置づけられていくのは、ほんの少し話を聞いて研究史を追いかけただけのぼくにしてみてもちょっと感動的だ。

 そして、いずれ、化学組成の系統樹、星の系統樹、そして生命の系統樹。それらが、ひとつながりの「宇宙の樹」として見えてくる未来がやってくると確信する。

つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

坂井南美(さかい なみ)

1980年、高知県生まれ。理化学研究所 開拓研究本部 坂井星・惑星形成研究室 主任研究員。博士(理学)。2004年、早稲田大学理工学部物理学科を卒業。2008年、東京大学大学院理学系研究科博士課程を修了し、助教に就任。2015年、理化学研究所准主任研究員、2017年より現職。2009年に優れた博士論文を提出した研究者に贈られる井上研究奨励賞を、2013年に日本天文学会 研究奨励賞を受賞。2019年には文部科学省の科学技術・学術政策研究所による「ナイスステップな研究者」に選ばれた。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。
本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。