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 一方、真鍋さんは日本の断片的な恐竜化石を同定するために、イエール大学の膨大な標本にあたって目を肥やし(所属のピーボディ自然史博物館は、19世紀後半の「化石戦争」の主人公の一人オスニエル・チャールズ・マーシュが設立した由緒正しきもの)、同じようなことに関心を抱くようになっていた。

「進化は繰り返すといいますか、僕のもともとの関心の1つとして、収斂進化みたいなものがあって、ベントン先生の関心と一致しました。魚竜、サメ、イルカって、爬虫類、魚類、哺乳類なんだけど、流線形の体を持っていてヒレがあるのが共通するじゃないですか。だから、進化の中で似たような現象が繰り返し起こってくるっていうのはどういうことなのかというのは、すごく大きなテーマなんです。その一端を担うようなことを学生のプロジェクトとして誰かにやらせたいということで、僕がそこに行くことになったんです。結局、僕は魚竜の部分で博士論文を書いたんです」

 今、科博には、三畳紀後期にいたという全長21メートルもの巨大な魚竜ショニサウルスの後頭部の化石(産状を再現した模型)が展示されている。これは真鍋さんが科博に就職してから、カナダのロイヤル・ティレル博物館との合同発掘調査で見つかった素晴らしい標本だ。ぼくはこれまで、実に漫然と「へえ、真鍋さんも発掘に参加していたんだ」くらいに感じていた。しかし、その背景には収斂進化の研究という、非常に大きなテーマが横たわっていたのである。

 さて、アメリカのイエール大学で日本の恐竜化石を検討し、イギリスのブリストル大学で魚竜を中心に収斂進化を考え、中生代の巨大爬虫類の専門家となった真鍋さんは、いよいよ日本に帰国して国立科学博物館の研究員(当時は、研究官)に着任する。

 1994年のことだ。それは、空前の恐竜ブームのさなかだった。

写真でみる巨大な魚竜ショニサウルスの発掘から展示まで

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ショニサウルスの頭蓋骨の後ろ部分(左)。化石が巨大でアクセスも不便なため、ヘリコプターで運ばれた(右)。(画像提供:真鍋真)
ショニサウルスの頭蓋骨をひっくり返すところ。(画像提供:真鍋真)
カナダ、ロイヤル・ティレル博物館に展示されるショニサウルスの化石。奥が頭。(画像提供:真鍋真)
同じくショニサウルスの頭部。全長21mもあるだけに、頭部だけでも巨大だ。(画像提供:真鍋真)

つづく

(このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)

書籍『NHKスペシャル 恐竜超世界』

最新の研究で明らかになったすごい生態を、超高精細な4KCG(コンピューターグラフィック)を基にした豊富なビジュアルで完全再現します。

真鍋真(まなべ まこと)

1959年、東京都生まれ。国立科学博物館 標本資料センター長・コレクションディレクター、分子生物多様性研究資料センター長。博士(Ph.D)。恐竜など中生代の化石から読み解く爬虫類、鳥類の進化を主な研究テーマとする。1984年、横浜国立大学教育学部卒業。同大学院修士課程を86年に修了後、米イエール大学院修士課程を経て、94年、英ブリストル大学理学部地質学科で博士号(Ph.D)を取得。同年に国立科学博物館地学研究部に勤務し、地学研究部生命進化史研究グループ長などを務めた後、2016年4月より現職。『恐竜博士のめまぐるしくも愉快な日常』(ブックマン社)『恐竜の魅せ方 展示の舞台裏を知ればもっと楽しい』(CCCメディアハウス)『深読み! 絵本『せいめいのれきし』』(岩波科学ライブラリー)『大人のための恐竜教室』(共著、ウェッジ)など著書多数。『せいめいのれきし 改訂版』(監修、岩波書店)など、監修も多くて手掛けている。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』 (ハヤカワ文庫JA)、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)とその“サイドB”としてブラインドサッカーの世界を描いた『太陽ときみの声』(朝日学生新聞社)など。

本連載からのスピンアウトである、ホモ・サピエンス以前のアジアの人類史に関する最新の知見をまとめた近著『我々はなぜ我々だけなのか アジアから消えた多様な「人類」たち』(講談社ブルーバックス)で、第34回講談社科学出版賞と科学ジャーナリスト賞2018を受賞。ほかに「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめた『8時間睡眠のウソ。 日本人の眠り、8つの新常識』(集英社文庫)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)もある。

近著は、世界の動物園のお手本と評されるニューヨーク、ブロンクス動物園の展示部門をけん引する日本人デザイナー、本田公夫との共著『動物園から未来を変える』(亜紀書房)。

ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。