「実は、アジアの陸上の地層では、K/Pg境界と上下の脊椎動物化石が確認されているところがまだないんですよ」

 真鍋さんは、ある意味、衝撃的な発言をした。

 サイエンス誌の論文で世界中の300カ所を検討したというのも、北米以外では深海底から採取したものが多い。そもそもアジアでは、中生代と新生代の境目をきっちりと見せてくれる陸の地層というのはまだ見つかっておらず、イリジウム異常が検出される場所自体、今のところないのだという。中国の遼寧省やモンゴルのゴビ砂漠からは白亜紀の化石がたくさん出ているのだから、どこかにありそうだと思うのだか……。

アジアではK/Pg境界をきっちり示す陸の地層がまだ見つかっていないとは。
アジアではK/Pg境界をきっちり示す陸の地層がまだ見つかっていないとは。

 「境界に近いんじゃないかというところはいくらでもあるんですけど、ゴビ砂漠の白亜紀後期の恐竜化石が出るところは、イリジウムが積もっていたとしてもその部分が風化侵食されて、さらに下の白亜紀の地層が見えている状態であるわけです。中国の遼寧省は、羽毛恐竜で有名なところですが、今、露出している地層が白亜紀前期のところまで下がってきています。かなり以前に遡らなくてはならないでしょうけど、かつてこの地域にも風化侵食される前の地層があって、それでちゃんとイリジウムもサンプリングできて、上の地層には恐竜じゃなくて、こんな鳥とか爬虫類とか哺乳類がいますねみたいなものを採集できたのかもしれないんですけどね」

 これは実に興味深い問題だ。

 恐竜という人目を惹く化石が出るからこそそのあたりが注目され発掘されるようになるわけだが、今、白亜紀の恐竜たちが出てくる地層のある場所では、その上にあったはずのK/Pg境界の部分はもう風化侵食されて残っていない。北米でいくつも当該地層が見つかっているのは、ほどよくアクセス可能な崖のようになった場所で、白亜紀から古第三紀への移り変わりを見つける努力がなされてきたからだ。

 「でも、これからは当然アジアはどうなんだと、みんなの関心が広がってきていますので、いずれ見つかるかもしれません。日本でもそうですよ。恐竜がいったん見つかると、実はあるはずだとか、ここでも見つかったとか、飛躍的に情報量が増えてきたじゃないですか。それと同じで、見つかるはずだと期待してもいいんじゃないかなって思いますね」