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「そこで、僕の立場は、RNAが先かタンパク質が先かという話ではなく、恐らく同時に進んできたのではないか、というものです。原始地球の頃からRNAとタンパク質の紐が共存していて、両方の紐が同時にあることがお互いにそれぞれ有利に働くような共進化が働いて、そのおかげで徐々に大きいリボソームのようなものができてきたんじゃないかというふうに考えています」

 RNAが先でも、タンパク質が先でも、両方が絡まり合ってできているリボソームの起源は説明しにくいのだとしたら、両方が共存してともに進化しきた可能性があるのではないか、というのが藤島さんの見立てだ。

「RNA、つまり核酸の紐と、ペプチド、つまりアミノ酸の紐、2種類の紐が共存している世界があったと仮定して、2つが同時に存在することがそれぞれの進化にとって有利だったということを証明したいんです。それがもし証明できれば、タンパク質とRNAからなるリボソームができた過程も分かるでしょうし、そもそも、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐をかくも見事に協調させて使っていることの説明もできるはずです」

 具体的には、藤島さんは徹底的、網羅的な手法を取る。あたかもコンピュータの中でシミュレーションのプログラムを走らせるかのように総当たり的な組み合わせを実際に試す。

「今、合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されているので、試験管の中でまぜまぜしてRNAとタンパク質のカクテルを作ることができます。その時に、できたタンパク質が逃げてしまわずにそのままRNAとくっついているような化学物質を加えておくと、RNAタンパク質複合体ができます。そして、その中から、何か特定の機能を持っているものをスクリーニングしていきます」

 藤島さんが考える原始の「RNA・ペプチド共存ワールド」では、RNAとそこから翻訳されたペプチドが一緒にいることで有利になったと想定されるので、それが実際に起きるかを見ていく。

「これまでの過去の実験事例から、RNA自体が折りたたまって、それ自体、触媒活性を持ったり(リボザイム)、特定の分子に結合能があるもの(アプタマー)が見つかっています。つまり、それらは、原始地球でRNAワールドがあったという時に引き合いに出されるものです。でも、RNAだけよりも、タンパク質も一緒にあると、より適応度が高くなるような状態を示したいわけです。これもう、黒板に書いてしまいますね──」

 藤島さんはさっと立ち上がって、黒板になにやら図表を描き始めた。

 3次元の座標がまずあって、その「底面」から山がいくつも立ち上がる。

「こういうのを適応度地形と言います。縦の軸は『適応度』といって、どれくらい分子が環境に適応しているか、この場合は、RNAの機能の高さを測った尺度だと解釈してください。そして、横軸といいますか底面は、配列空間です。たとえば、RNAの配列に応じて、この底面に点を打てるわけです。そして、それぞれのRNAについて『適応度』を見ていきます。『適応度』の尺度には、ここでは、RNAがエネルギーの共通通貨といわれるATPという物質と結合する能力を考えましょうか。最初のスクリーニングをすると、結合能が高いものが小さな山として立ち上がって見えてくるので、今度はそういった能力が高いものを集めてまたスクリーニングするというサイクルを繰り返します。すると、最終的にある程度高い山がいくつかできていきます。こうやってRNAの機能が高いものの配列がとれます」