150万社のビッグデータを活用し、新しい切り口や問題意識からこれまで知られなかった日本経済の姿を明らかにする――。今回のテーマは製茶会社。ビッグデータによって地域ごとの戦略の違いが判明、新たな取り組みも見えてきた。
調査・分析は東京商工リサーチ(東京・千代田)と東京経済大学の山本聡准教授による共同研究の一環。データやグラフなどは東京商工リサーチの企業情報データベースに基づく。
鹿児島の製茶会社が少ない理由
国内の緑茶市場はペットボトル入りの緑茶飲料が増加基調にある一方、急須でいれるリーフ茶は減少傾向にある。一世帯当たりの茶飲料とリーフ茶との支出金額は逆転しており、市場構造は大きな変化が生じている。
今回のデータの対象になるのは全国822社の製茶会社。リーフ茶市場の縮小に伴い、製茶会社数はこのところ減少傾向にある。
まず所在地を都道府県別にみたところ、目立つのが静岡県の占める比率の高さだ。全体の5割弱が静岡であり、2位の京都府(約7%)、3位の鹿児島県(約6%)、4位の岐阜県、福岡県(約4%)などを大きく引き離している。
農林水産省の「作物統計」によると、静岡は荒茶生産の4割を占める日本一の産地であるうえ、大消費地である首都圏が近い。このため、製茶業が盛んなのは当然ともいえる。
これに対して、やや意外なのは鹿児島だ。荒茶生産においては3割を占め、静岡に次ぐ2位であるにもかかわらず、製茶会社の数は静岡に比べるとずっと少ない。
理由を探るために詳しく分析すると、浮かび上がるのが生産性の違いだ。
お茶農家では鹿児島で大規模化が進んでいることが知られている。本格的な増産に取り組んできたのは1960年代後半からとされ、当初から大量生産を目的にしていた。こうした背景もあり、「鹿児島は製茶会社も機械化やオートメーション化が進んでおり、人手をかけない効率的な経営が目立つ。例えば、独立系の製茶会社の上位10社を調べたところ、鹿児島県の製茶会社はオートメーション化を経営上の特徴としていた」と山本准教授は話す。
裏付けるのが売上高と利益だ。社員一人当たりの月間売上高を比べると、鹿児島が309万円であるのに対し、静岡は249万円にとどまる。
社員1人当たりの月間利益金額で比べた場合にはその違いはさらに大きい。鹿児島が約6万5000円に対し、静岡は約1万5000円となっている。社数だけ比べると静岡のほうが圧倒的に多いが、経営データからは鹿児島の効率のよさが目立つ。東京商工リサーチ市場調査部の宮原拓也氏によると、「鹿児島茶は長年ブランド力がなくブレンド茶となってきたが、産地表記の厳格化が進むなかで品種改良が進み、表舞台に出てくるようにもなっている」という。
静岡の生産農家は中山間地が主体であり、茶畑は比較的規模が小さい。このため、人手をかけて生産する傾向がある。そしてこれに対応するように、静岡では地域ごとに小規模な製茶会社が多数残っている。
静岡の小規模な製茶会社は仕入れ量や販売量が限られるが、自社専門のお茶農家と取引しながら、その会社ならではの特徴を持ったリーフ茶を製造する。静岡は緑茶の消費量が全国トップであることも知られている。小規模な製茶会社の存在は商品のバラエティーにつながり、地元のリーフ茶の消費を支えている可能性がある。
ペットボトル茶と規模拡大
もちろん静岡にも規模拡大を進める製茶会社はある。
社員数で見た場合、ベスト10に静岡のメーカーは3社あるが、このうち2社は扱い品目に大手メーカーに対するOEM(相手先ブランドによる生産)が含まれている。静岡以外にもOEMによって成長する会社はベスト10にある。OEMで手がけるのは主にペットボトル茶であるとみられ、消費構造の変化に対応しながら事業を伸ばしている。
静岡と鹿児島の製茶会社の業歴平均を比べた場合、静岡が67年であるのに対し鹿児島は50年となっており、それほど大きな違いはない。しかし、静岡には江戸時代前半に創業した製茶会社があるが、鹿児島の場合は今回のデータによると明治期創業の会社が最古参であり、製茶業の歴史やその厚みには違いがありそうだ。「歴史の違いが知名度やブランド力の違いとなり、社数や効率化の度合いの違いにつながっているかもしれない」(山本准教授)
歴史という点でいえば、製茶会社数で2位の京都は静岡をさらに上回り、業歴の平均は104年。老舗が多く、なかには室町時代~戦国時代に創業の製茶会社もある。南部の宇治などの産地を持つ京都は、荒茶に比べると価格が高い抹茶の扱いが多い。その分、効率的な経営ができており、社員1人当たりの売上高、利益はともに静岡、鹿児島を上回る。
26社が輸出に取り組む
製茶業でこのところ注目を集めるのが輸出だ。世界的な日本食への関心の高まりと同時に、人口減少で国内市場の頭打ちが予想され、海外に市場を求める動きが強まっている。それを裏付けるように、輸出する製茶会社は2012年に18社だったが、17年には26社に増加している。
このうち静岡の製茶会社が14社を占める。輸出額などはまだ限定的であるものの、先進的な取り組みもある。「ドメスティックな企業群と見られがちだが、米国やシンガポールなど海外に現地販売拠点を持つところもある。また、抹茶などを使った新商品開発に熱心な企業がいくつもある。今後の動向に注目したい」(山本准教授)。
海外向けには有機栽培の荒茶が必要になることが多く、特定のお茶農家との取引など独自のこだわりを打ち出しているケースが目立つという。
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