日本は「子育て罰」社会?

さらに生活保護世帯でお子さんが大学に入ると対応が必要とか。

渡辺氏:例えば、母1人子1人の世帯で生活保護を受けている場合、同じ家に住んでいても世帯分離という手続きを踏んで、大学生の生計を独立させなければなりません。少し前までは、生活保護のご家庭のお子さんは、高校を卒業したら働くのが当たり前でした。大学や専門学校への進学率が上がり、さすがに生活保護のご家庭の子どもが大学に行くのはけしからん、ということはなくなりました。今では、国も生活保護家庭の子どもの大学や専門学校への進学率も一般家庭の子どもと同じであるべきだという考えに変わりました。

 しかし制度が追いついていないので、現状では母1人子1人の生活保護家庭のお子さんが大学進学をすると、その後、生活保護を受けられるのは母親のみとなります。お子さんは、生活費をアルバイトで稼がなければなりませんが、コロナで思うようにアルバイトもできず、生活保護が減って生活費が全く足りない、何とか食料を送ってもらえないかといった切実な相談も私たちに寄せられました。

(写真:鈴木愛子)
(写真:鈴木愛子)

この国は次の世代を育てようとしているのか、疑問に感じてしまう話です。

渡辺氏:仕事を失い収入がなくなっても、どん底に落ちないと支援が受けられないとでもいうような生活保護制度に代わって、なるべく早く復活できる仕組みが必要です。その一つの手段が、必要な人に迅速に現金を支給できる仕組みだと思います。そうした制度を平常時から整えておくべきではないでしょうか。

 日本では、結局、コロナ禍で、お金がない、食べるものもないという人たちを1年半以上放置せざるを得ないような状況になりました。キッズドアも子育て支援団体などと連携し、一斉休校となった20年3月から困窮子育て家庭を助けてくれと声を上げましたが、インターネット署名を行ったり、自前の調査や記者会見などを何度も行い、政府や政治家に何度も要望をしたりして、ようやく子ども1人あたり5万円の特別給付が決まる、という状況です。コロナの影響で仕事ができず、そのためにたくさんの子どもが満足にご飯を食べられない状況なのに、なぜ迅速な支援ができないのか? もし、私たちがこの要望を出さなければ、政府は飢える子どもたちに1円も給付しなかったのか? と恐ろしく感じてしまいます。

(写真:鈴木愛子)
(写真:鈴木愛子)

声を上げる運動家がいるから支給する、という印象を受けたわけですか?

渡辺氏:家庭や環境にかかわらず、自国の子どもが飢えないようにするというのは、多くの国で最優先の政府の仕事だという話を聞きました。

 コロナ禍の日本では、すべての子どもに食べさせる、すべての子どもの教育環境を整えるということができていません。日本は、平時でも子育ての費用も、教育の費用も国の支援が少なく、多くを親が負担しなければなりません。日本は「子どもを持つほど家計が苦しくなる」「子育て罰」の国になっています。

産めば産むほど損、負担が重いというわけですね。

渡辺氏:子育て資金が少ない家庭でも、質の高い教育を無料で受けられるといった保証があればいいのですが、育てるのも親、教育も親の負担となると、子どもがいればいるほど、満足な教育も受けさせてあげられなくなります。子どもがたくさんいてもみんな無料で大学に行けますというのであれば、何とか頑張って産んで育てる気になるかと思います。しかし大学まで1人行かせるのに1000万円以上必要となると、全員進学させるのは大変です。一生懸命親が働いても貧困になるリスクが高いのです。子どもの数が増えるほど家計が圧迫される状況では、本当はたくさん子どもが欲しくても、多く産もうとは思わないでしょう。

 日本は先進国の中でも、子育て関連、特に教育への予算が少ない国です。まずは、せめて現在中学生までとなっている児童手当を高校生まで引き上げるなど、子ども関連の予算を増やすべきです。

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