また、企業間の競争では、ライバルといかに差異化していくかが課題になります。しかし物流で競争して各社が差異化を図ると、全体としてはシステムも輸送形態もどんどん数が増え、かえって非効率になっていきます。今、必要なのは競争よりも協調と標準化です。その意味でも、方針の転換と言えるでしょう。

アナログが整理されてこそDXが可能になる

さらにフィジカルインターネット実現に欠かせないDXの問題についてお聞きします。中野さんは経産省・情報技術利用促進課の課長として、日本の遅れを指摘してDX推進に取り組んでこられましたが、日本企業のDXの取り組みは物流改革を可能にするレベル、状況にあると言えるのでしょうか。つまり、日本はDXを実現しつつあり、フィジカルインターネットも進めていける状態なのか、あるいは、日本はDXもまだ途上で、DX とフィジカルインターネットの両方を進めて行かねばならないのでしょうか。

中野氏:確かに私がDXについて報告書をまとめた2017~18年ごろは、日本で「DX」といえばデラックスの略と言われるほどで(笑)、デジタル化の必要性が浸透していませんでした。しかし今やDXといえば、かなりの人がデジタルトランスフォーメーションだと認知し、その重要性も理解しています。

 しかし、ここが重要なポイントですが、デジタル化を実現するには、前提となるアナログ、フィジカルが整理されていなければならないのです。例えば物流においては、標準化の基礎となるパレットの規格や運用をどうするか、段ボールの大きさをどうするか、バーコード管理をするなら段ボールのどこにバーコードのラベルを貼るのか、一つひとつメーカーと流通、物流会社がすり合わせて決めていかなくてはなりません。

 すでに個々の会社がそれぞれ仕組みを持っているので、それを変更して、共通化、標準化を図るわけです。この非常に手間のかかるアナログな作業を経ないと、物流のDX、さらにフィジカルインターネットを実現できないのです。