10月6日、第1回フィジカルインターネット実現会議が開かれ、日本の物流改革を進める新たな議論が始まった。現在の日本の物流コストはバブル期を上回っており、日本経済のボトルネックになりかねない、という危機意識のもと、物流効率化への議論が始まった。
究極の物流効率化策とされる「フィジカルインターネット」に国として取り組むのは日本が世界で初めて。中心となっているのは経済産業省消費・流通政策課長/同物流企画室長であり、政治経済思想を専門とする評論家としても活動する中野剛志氏だ。中野氏は『TPP亡国論』『富国と強兵』『奇跡の経済教室』など多数の著書があることでも知られる。
なぜ今、日本がフィジカルインターネットの実現を目指すのか。前回は、日本の物流が直面するコスト高と長年の構造問題について中野氏に聞いた。今回は、国として物流効率化を進める理由と、実現に向けたハードルについて聞いた。

1971年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年からエディンバラ大学大学院に留学し政治思想を専攻。2005年博士号を取得。商務情報政策局情報技術利用促進課長、製造産業局参事官などを経て現職。
物流は公益にかかわる。企業の枠を超えた標準化が必要
前回は、日本で物流コストインフレが起きている中、物流改革・効率化のためにフィジカルインターネットを推進するという方針をお聞きしました。物流に関しては国が議論をリードすべきとお考えですか?
中野剛志氏(以下、中野氏):物流は、電気・ガス・水道ほどではないにしても、公益にかかわる事業なので、協調領域として企業の枠を超えた標準化が必要です。例えば、パレット輸送に関して規格を統一したり、システムづくりを進めたりすることは物流を効率化するうえで欠かせないプロセスです。
なぜなら放置すると、物流コストインフレが進んで物価上昇が起きたり、企業活動に影響が出たりするリスクもあるからです。あるいは独占的な企業が現れて自社に都合のいい基準を作ってしまうかもしれません。
国がリードして決めていくというよりも、企業がコンセンサスを形成していくうえでの調整役という立場で関与していく予定です。
競争の結果、ドライバー不足に
1990年代以降、日本では運輸業界の規制緩和も進め、新自由主義的な施策を打ってきましたが、その方針からの転換ということでしょうか。
中野氏:競争を促進しようとして運輸業界への参入障壁を下げましたが、あまりに競争が激化して労働環境が悪化し、ドライバーの数は減少しました。教科書的には市場原理に従って自由に競争をすると優良な企業が生き残る、となるはずでしたが、結果はドライバー不足が起きたのですから、失敗でしょう。教科書通りにはなりませんでした。ドライバーの労働環境を改善しなければなりません。
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