道路貨物の輸送サービス価格は2010年代後半から上昇し、現在もバブル期の水準を上回る過去最高の水準にある。もはや物流コストインフレによる物価の上昇も懸念される状況だ。
そんな中、究極の物流効率化策といわれる「フィジカルインターネット」に日本が世界で初めて国を挙げて取り組む。中心となっているのは経済産業省の消費・流通政策課長/同物流企画室長であり、政治経済思想を専門とする評論家としても活動する中野剛志氏だ。中野氏は『TPP亡国論』『富国と強兵』『奇跡の経済教室』など多数の著書があることでも知られる。
なぜ今、日本がフィジカルインターネットの実現を目指すのか。日本の物流が抱える構造問題と、改革しなければ日本のGDPを押し下げる原因になりかねない深刻な物流の危機について、中野氏に聞いた。

1971年神奈川県生まれ。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年からエディンバラ大学大学院に留学し政治思想を専攻。2005年博士号を取得。商務情報政策局情報技術利用促進課長、製造産業局参事官などを経て現職。
深刻な物流コストインフレ
経済産業省は新たに「フィジカルインターネット実現会議」を立ち上げ、物流改革に乗り出します。物流を取り巻く環境をどのようにとらえていますか?
中野剛志氏(以下、中野氏):今、日本の物流コストはバブル期を上回るレベルに高騰し、物流コストインフレと呼べる状況が起きています。率直に言えば、物流の構造的な問題を解決しないと日本全体の経済成長が阻害され、2030年には運べない荷物が多数出てくるほどの危機が迫っていると考えています。
なぜ、それほどの危機が生まれたのでしょうか。
中野氏:ここまで厳しい状況を迎えた原因は、企業における物流戦略に対する意識が低いことです。従来、物流は「コストセンター」であり、単なるコスト削減の対象でした。それを証明するかのように、ネット通販は「送料無料」をうたうサービスであふれています。しかし実際は、配送料がゼロなわけがありません。むしろ配送料は高騰し、利益を圧迫しているのです。特に2015年以降、ネット通販の配送に使われる宅配便のコストが急騰しています。
にもかかわらず全体では、なおも物流戦略への意識は低いままで、いまだに物流現場では電話やファクスで受注をやり取りするなど、驚くほど非効率な商慣行が続いています。DX(デジタルトランスフォーメーション)、自動化、省人化を急ピッチで進める必要があります。
全産業のコスト、サービスに直結する物流の改革は、日本にとって焦眉の課題なのです。
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