「コロナ禍が長引く中、困窮子育て世帯の経済状況が深刻さを増している」と語るのは、子どもの貧困問題に取り組み、学習支援活動を続けるNPO法人キッズドアの渡辺由美子理事長だ。7人に1人の子どもが貧困という実態に目を向け、大学生やビジネスパーソンらボランティアが講師を務める形で、困窮世帯の中高生を対象にした学習会などを実施してきた。新型コロナの発生以降、親が失業するなど困難な状況に陥る家庭が増え、食事の回数を減らすといった状況も生まれていることから、キッズドアは食料などの支援も活動に加えた。

 「この国の将来を担う子どもたちの食料不足を放置して栄養状態を顧みず、教育においても不利な状況に置き去りにする政府は、あまりにも無策。ビジョンがない」と指摘する渡辺氏に、子どもたちの状況、必要とされる支援を聞いた。(聞き手は日経ビジネス編集部シニアエディター、村上富美)

コロナ禍が長引く中、渡辺さんは、困窮する子育て家庭への支援が足りないと警鐘を鳴らしています。

渡辺由美子氏(以下、渡辺氏):支援は全く足りていません。2020年には特別定額給付金10万円は出ましたが、子育て家庭には、それに加えて4月に1回、児童一人につき児童手当が1万円上乗せされたのみです。児童扶養手当を受けている一人親家庭の子どもには「臨時特別給付金」が2回出ましたが、コロナの影響で所得が減少した二人親家庭の子どもには1回も出ていませんでした。

 21年3月になって、困窮する一人親家庭と二人親家庭に5万円の給付が決まりましたが、二人親家庭の支給は7月以降となったところがほとんど。遅いし、不十分です。

金額も決して多くありませんね。

渡辺氏:Go ToトラベルやGoToイートには、1兆7000億円もの予算をつけて使っています。1人1回、宿泊費最大14万円を何度でも出したり、レストランへの休業補償は迅速に支払うために一律で1日6万円。もちろん足りないところも多いでしょうが、それだけもらえるなら閉めていた方がいいというお店もあるでしょう。それに比べると、子どもへの給付は、単発で額も5万円、3万円と、とても少ないと感じます。

<span class="fontBold">渡辺 由美子(わたなべ・ゆみこ)氏</span><br>NPO法人キッズドア・理事⻑<br>千葉大学工学部出身。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。 2000年から2001年にかけて、家族でイギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。<br>準備期間を経て、2007年任意団体キッズドアを立ち上げる。2009年内閣府の認証を受け、特定非営利活動法人キッズドアを設立。「親の収入格差のせいで教育格差が生じてはならない!」との思いから、経済的に困難な子どもたちが無理なく進学できるよう、日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、子どもの貧困問題解決に向けて活動を広げている。<br>「内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議」メンバー、全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表理事を務める。<br>写真=鈴木愛子(以下同)
渡辺 由美子(わたなべ・ゆみこ)氏
NPO法人キッズドア・理事⻑
千葉大学工学部出身。大手百貨店、出版社を経て、フリーランスのマーケティングプランナーとして活躍。 2000年から2001年にかけて、家族でイギリスに移住し、「社会全体で子どもを育てる」ことを体験する。
準備期間を経て、2007年任意団体キッズドアを立ち上げる。2009年内閣府の認証を受け、特定非営利活動法人キッズドアを設立。「親の収入格差のせいで教育格差が生じてはならない!」との思いから、経済的に困難な子どもたちが無理なく進学できるよう、日本の全ての子どもが夢と希望を持てる社会を目指し、子どもの貧困問題解決に向けて活動を広げている。
「内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議」メンバー、全国子どもの貧困・教育支援団体協議会 副代表理事を務める。
写真=鈴木愛子(以下同)

確かに、Go Toを利用できるのは比較的、余裕がある層ですね。

渡辺氏:私たちは別に毎月5万円出してくれと言っているわけじゃなくて、子育てをしている家庭はご飯が食べられないほど大変な家庭もあるので、とにかく1回出してください、とお願いしています。が、後回しでなかなか給付が決まりません。困窮する家庭からは「食事を1日2食にした」「冷蔵庫は空っぽ」という声が数多く届いています。

 21年4月、キッズドアがサポートする家庭を対象に実施した調査では、「お金がなくて必要な食料が買えなかった」という回答が全体(1972人)の50%に上り、昨年12月の調査(1233人)の37%に比べ、13ポイントアップしていました。

日本の貧困については、可処分所得の中央値の2分の1以下で生活するという基準の「相対的貧困」であり、「絶対的貧困」ではないから、そこまで深刻じゃないとおっしゃる方もいますが、深刻ですね。

渡辺氏: 今は、絶対的貧困状況に限りなく近いです。食べられないわけですから。相対的貧困というのは貧困ライン未満の人たちを指すわけですが、コロナ禍の影響で収入がマイナス、あるいは、限りなくゼロの人がたくさんいます。しかし、そこに対して現金給付などの支援はありません。

当座の生活費を支援する制度などは利用できないのでしょうか。

渡辺氏:政府は緊急小口資金や、総合支援資金、住宅確保給付金といったものがあるから、ぜひそれを使ってください、とおっしゃいます。しかし実際に困窮子育て家庭の保護者が利用しようとしても使えなかったという声はたくさん届いています。

どういうことですか?

渡辺氏:シングルマザーで3人の子育てをしている方が、パートの仕事がなくなってしまい、地元の社会福祉協議会に支援の申請に行ったところ、月々の家計のことを聞かれ、月の食費が1万5000円と言うと『もっと削れませんか?』と言われたそうです。

お母さんと子ども3人で月の食費が1万5000円ですか? どう考えても少なすぎます。それをさらに削れと言うのは、あまりにひどい。

渡辺氏:つまり、支援制度があると言っても、実態として全然使えない制度になっているのです。また、支援制度の多くは貸し付けです。給付ではなく、貸し付けであることがハードルになります。

キッズドアにはサポートする家庭から感謝とともに切実な声が寄せられる
キッズドアにはサポートする家庭から感謝とともに切実な声が寄せられる

返済が必要なわけですね。

渡辺氏:そうです。申請時に返済能力を見られるのです。例えば一人親家庭で子どもを3人育てている、この方のようなケースで、社会福祉協議会に相談に行き「コロナ禍で収入も減ってしまったので、コロナ支援の貸し付けを利用したい」と相談したら、「でもあなた、一人親で3人育てていて、これ、返せるんですか」と聞かれたそうです。「返せないんだったら貸すわけにいかないよね」と言って断られている、自分の周りもみんなそれで断られているということです。

 最初の緊急事態の時に、仕事に行けなくて困窮する人が出てしまう、本当はどんどん給付をしたいけれど、日本では給付の仕組みがないので、取りあえず社会福祉協議会を通じて貸し付けという制度を使います、でも、困窮している方は返済しなくていいですよ、という趣旨でスタートしたはずの制度でした。それなのに、実際に現場では、返済能力がないなら借りられない、ということが起こっています。

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